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3.
忠岡の決意は強固だ。気持ちでは負けていない。
とはいえ、実現できるかどうかは甚だ疑問ではあった。
「あ、相手は百戦錬磨の『指紋の英雄』ですよ?」
「何よー忠志くん、ひょっとしてあたしを裏切るつもりー?」
「いや、裏切るも何も……俺は検挙数の記録を持つ身ですから、さらに上を行く英川さんは尊敬対象なんですよ。あんな偉大な人物が、証拠隠滅なんて考えられませんって」
万年筆には院長の指紋だけが残っていたという。
だとすれば、犯人は確実に手袋を着用していたことになる。
しかし、万年筆からは繊維質が一切見付からなかった……それはなぜか?
口を開いたのは管理官だった。
「英雄殿が事前に、経理の知念慶介から犯罪計画を持ちかけられたとすれば、初動捜査にかまけて証拠品を処置しておいた、か」
「それそれー!」上司を平然と指差す忠岡。「万年筆に付いた犯人の指紋をあえて無視した可能性もあるけどー、これは別の人が調べたら一発でバレちゃうから、ないわねー。犯人は手袋だった、その埃を飛ばしてから鑑識課が押収したのよー」
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