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「ねー管理官ー、これ一つだけおかしー点がありませんかー?」
忠岡が唇を尖らせた。
駄々をこねる子供のような挙措で、管理官の袖を引っ張る。
管理官も我が子をあやす親のごとき振る舞いで、律儀に耳を傾けるから世話はない。
「何に気付いたのかね?」
「改竄の筆圧がー、どの領収書も近似値を示してますよねー?」
「同一犯による書き換えならば、同じ筆圧になるのは当然だ」
「でもその数値がー、院長だとは限りませんよねー?」
「関係者の筆圧も調査済みだぞ。次のページを見ろ。職員全員の筆圧を測定してある。普段用いている日誌などから採集した数値で、最も妥当なのが院長だったらしい」
「えー? 院長の数値とは当たらずとも遠からずですよー」
忠岡はページをさらにめくった。
確かにそこには、孤児院に勤める職員たちの手書き文字が印刷されており、字の特徴や止め・払いごとの細かな筆圧が明記されている。
文字の入り方や跳ねにかかる筆圧が、領収書の筆圧とはかけ離れていた。
「ですが、完全に的外れでもないですよ」文字を照らし合わせる徳憲。「払いの抜け方や横線を引くときの筆圧は近似値です」
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