第一幕.非解決役の破綻推理

30/66
前へ
/261ページ
次へ
「ねー管理官ー、これ一つだけおかしー点がありませんかー?」  忠岡が唇を尖らせた。  駄々をこねる子供のような挙措で、管理官の袖を引っ張る。  管理官も我が子をあやす親のごとき振る舞いで、律儀に耳を傾けるから世話はない。 「何に気付いたのかね?」 「改竄の筆圧がー、どの領収書も近似値を示してますよねー?」 「同一犯による書き換えならば、同じ筆圧になるのは当然だ」 「でもその数値がー、院長だとは限りませんよねー?」 「関係者の筆圧も調査済みだぞ。次のページを見ろ。職員全員の筆圧を測定してある。普段用いている日誌などから採集した数値で、最も妥当なのが院長だったらしい」 「えー? 院長の数値とは当たらずとも遠からずですよー」  忠岡はページをさらにめくった。  確かにそこには、孤児院に勤める職員たちの手書き文字が印刷されており、字の特徴や止め・払いごとの細かな筆圧が明記されている。  文字の入り方や()ねにかかる筆圧が、領収書の筆圧とはかけ離れていた。 「ですが、完全に的外れでもないですよ」文字を照らし合わせる徳憲。「払いの抜け方や横線を引くときの筆圧は近似値です」
/261ページ

最初のコメントを投稿しよう!

108人が本棚に入れています
本棚に追加