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「えっ! わざと筆圧を?」
「院長に成りすまして改竄しよーって企む奴ならー、少なくとも本来の自分とは違う筆致にしよーと画策するんじゃなーい? 字面を変えて他人を装う……犯罪心理の初歩よー」
犯罪心理。
そうだった、この女史は心理係の研究者なのだ。犯罪者の心を読む専門家である。
日常的に筆圧を意識する者はまず居ないが、自身の痕跡をごまかすときは別だ。意図的に違う筆跡を残そうとするだろう。
「二課は筆圧の犯罪心理までは見抜けずにー、万年筆とインクを重視しちゃったのよー」
ここで忠岡は踵を返した。
フロアの出口へ歩き出す。小さな体をせいぜい大股で、先を急ぐように早足で。
「ちょっ、忠岡さん、どこへ行くんですか?」
「決まってるでしょー。孤児院よ、孤児院!」
「ええっ?」
徳憲は慌てて後を追った。
管理官は来ない。遠い目で二人を見送っている。
忠岡の前に回り込んだ徳憲は、彼女の目的を問い質さざるを得ない。
「どうして孤児院へ? そもそも何の権限があって現場なんかに……」
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