第一幕.非解決役の破綻推理

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「えっ! わざと筆圧を?」 「院長に成りすまして改竄しよーって企む奴ならー、少なくとも本来の自分とは違う筆致にしよーと画策するんじゃなーい? 字面を変えて他人を装う……犯罪心理の初歩よー」  犯罪心理。  そうだった、この女史は心理係の研究者なのだ。犯罪者の心を読む専門家である。  日常的に筆圧を意識する者はまず居ないが、自身の痕跡をごまかすときは別だ。意図的に違う筆跡を残そうとするだろう。 「二課は筆圧の犯罪心理までは見抜けずにー、万年筆とインクを重視しちゃったのよー」  ここで忠岡は踵を返した。  フロアの出口へ歩き出す。小さな体をせいぜい大股で、先を急ぐように早足で。 「ちょっ、忠岡さん、どこへ行くんですか?」 「決まってるでしょー。孤児院よ、孤児院!」 「ええっ?」  徳憲は慌てて後を追った。  管理官は来ない。遠い目で二人を見送っている。  忠岡の前に回り込んだ徳憲は、彼女の目的を問い質さざるを得ない。 「どうして孤児院へ? そもそも何の権限があって現場なんかに……」
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