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「ここが忠岡さんの古巣なんですよね?」
「そーなの! と言ってもー、施設の職員は入れ替わりが激しーから、知り合いは誰一人として残ってないけどねー」
「だから身だしなみを整えなかったんですね」
知人が居なければ、おめかしする必要もない――忠岡悲呂はそういう女だ。
仕事に直結しない手間はとことん省く、漫画さながらのぐーたらな干物女。
「全く……何があなたをそこまで捜査一辺倒へと駆り立てるんですか?」
「以前も話したでしょー? あたしはおねーちゃんと一緒にこの孤児院で育ったって」
忠岡は久方振りに触れた外気にさらされながら、白衣と体臭をそよがせる。
鼻をつまむしかない徳憲に向かってか、それとも独言か。忠岡は滔々とこう語った。
「当時の孤児院はー、原則として一八歳で仕事を見付けて独立する決まりだったのよー。成人したあとまで孤児院は世話しきれないし、高卒なら仕事もたくさんあるしねー」
「はぁ……」
「でもー、おねーちゃんは就職せずに、大学受験を志望したのよー」
「え! じゃあ生活費はどうしたんですか?」
「この孤児院で初めて、特別に大卒まで入居を許可されたのー」
「おお……! それは院長に感謝してしかるべきですね」
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