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「でしょでしょー? 院長の恩情に多謝!」建物にお辞儀する忠岡。「その後、おねーちゃんは大学を出て大手企業に就職したわー。あたしも大卒まで孤児院に居て、大学院からはおねーちゃんの家に転居したのー」
「道理で院長に肩入れするわけだ……」
「院長は、あたしたちの父親も同然よー。それを穢す存在は絶対に許せないわー。だからあたしは、何が何でも院長を潔白にしなきゃいけないの……どんな手を使っても、ね」
忠岡は強く言い切った。あたかも自分に言い聞かせるように。何度も、何度も……。
並々ならない鬼気迫るものを感じた徳憲は、咄嗟に話題を変えることにした。
「で、何を調べに来たんですか?」
車に鍵をかけた徳憲は、施設の門を叩く。
呼び鈴を押して待ちぼうける間、小動物のごとき挙動で張り切る忠岡に目を向ける。
「んふふー。事件最大の焦点『万年筆の経緯』を探るのよー」
「経緯?」
「そ」腕組みする忠岡。「領収書を改竄した万年筆がー、いかにして犯人の手に渡ったのかを解明する必要があるじゃーん」
二課の見解では、院長が自分の万年筆を使っただけなので経緯など気にしなかった。
されど忠岡の『知念犯人説』は、知念が万年筆を拝借した経緯を暴く必要がある。
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