第一幕.非解決役の破綻推理

36/66
前へ
/261ページ
次へ
「堂々と万年筆を借りたとは思えないからー、こっそりくすねて使用したあとに元の場所へ返却した……と考えるのが妥当よねー?」 「それを誰かが目撃していれば良いですね」 「目撃情報は期待してないわー。状況証拠が見付かれば充分よー」 「状況……ですか」  証拠としては弱くないかと思案する徳憲だったが、忠岡に言っても無駄だろう。  ほどなく受付係の淑女が玄関に現れた。不承不承と言った(てい)で徳憲たちを招き入れる。  施設内は陰鬱としており、活気がなかった。職員たちは事件の処理に明け暮れ、院長亡きあとの経営をどうするのか途方に暮れている。どうにも辛気臭い。 「職員も、子供たちも皆、胸が張り裂ける思いです」  受付係が案内がてら吐露した。  廊下を渡り、職員室へと向かう。院長の席も職員室にあるそうなので、徳憲は一も二もなくそこを目指した。  院長のデスクは職員室の上座に位置し、職員用デスクとさほど離れていなかった。すなわち、本人が居ないときであれば、他人が机を物色することも可能である。 「あのー、知念慶介さんは居ますかー?」
/261ページ

最初のコメントを投稿しよう!

108人が本棚に入れています
本棚に追加