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英雄。
英川雄慈――略して『英雄』か。
名は体を表す。その名の通り、実績と実力を併せ持つ重鎮なのだろう。
「大人しくお縄に付けい」
その英雄がにじり寄った。
警察の包囲網も、みるみる迫る。
院長は屋上の隅で縮こまるしかなかった。残る道は背後の柵を飛び越えるしかない。
無論、地上へ真っ逆さまだ。四階の建物から落ちれば、ほぼ死ぬ。少なくとも重傷だ。
けれども、それしか逃げ場がないのであれば――。
「事実無根だ……」柵に手をかける院長。「私は潔白だーっ!」
屋上から転落した。
へっぴり腰に鞭打って、ろくにバランスも取れぬまま、頭から地面へ吸い込まれる。
よもや飛び降りるとは思わなかったのだろう、警察一同は唖然と顎を外しかけた。
――ぐしゃ、と階下で肉塊が潰れる音。
確認するのも嫌だったが、捜査主任が恐る恐る柵越しに下を覗き見た。
アスファルトに激突し、脳漿や臓物をぶちまけた初老男性の亡骸が横たわっていた。鮮血が放射状に飛び散っている。
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