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本来なら二課だけで解決したであろう事件が、思わぬ死によって波及した。これが呆れずに居られようか。
「二課の奴らも苦虫を噛み潰したようなツラだったな」
机上の扇風機で顔をあおぎつつ、徳憲はひとりごちる。
周りには一課の同僚たちも見受けられるが、誰もが同じ思いだった。いちいち返答するまでもなく、徳憲の不平不満に相槌を打つ。
「容疑者をしつこく追い詰めて自殺させた公僕の失態……いかにもマスゴミが喜びそうなストーリーだ。これは大問題になるぞ。本当、勘弁して欲しいよ全く」
昨今は警察への風当たりが強い。
徳憲は日々まっとうに職務を果たしているのに、よその不祥事ばかり取り沙汰される。さも警察全体が腐敗しきっているような批判に見舞われるのだから、やりきれない。
「現場一筋、仕事一筋でノンキャリアの俺が真面目に叩き上げたって言うのに……三十路前で警部補に昇級、一課の捜査主任も張れたのは最速記録なんだぞ……ぶつぶつ」
弱冠二九歳にして捜査主任を務める『警部補』。
それが、徳憲忠志という男の全てだ。
ノンキャリアとしては異例のスピード出世と言えよう。自慢ではないが検挙件数もトップを記録したことがある、肩書きに恥じない敏腕刑事だ。
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