第一幕.非解決役の破綻推理

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第一幕.非解決役の破綻推理

   1. 「なんで俺たち捜査一課が、二課の尻拭いをしなきゃいけないんだか……」  警視庁捜査一課の警部補である徳憲(とくのり)忠志(ただし)はデスクに戻るなり、盛大な溜息を吐いた。  椅子を乱暴に引いてどっかと腰かける。初夏の陽気は暑く、一足先にクールビズで歩き回った彼は汗だくだ。抽斗に収めていた制汗スプレーを吹き付けながら、ワイシャツの第二ボタンまで大きく外した。  出先は東京近郊、実ヶ丘(みのりがおか)市――。  ――そこにぽつんと建っていた孤児院だ。  なかなかに広い敷地だった。建物は目新しく、それなりに潤沢な資金と予算で運営されているように見えた。手入れや掃除も行き届いており、預けられた子供たちも品行方正、施設内のいざこざも全く聞かない。お手本とも言える孤児院である。  なのに、事件は起きた。  私文書偽造の逮捕状を取った二課が、容疑者(マルヨウ)を捕まえに出向いた所、当人が抵抗して逃走を試みた挙句、屋上から飛び降りたという。 「死体が出たら、()()()()が臨場して事件性の有無を確かめなきゃいけないんだよな」  はっきり言って、良い迷惑である。
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