タイムシフトでまた会おう

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ライブ 残り時間09:28 累計来場者数 11人 コメント数 0 アクティブ視聴者数 2人  数字を見ているだけでも息が詰まりそうだった。しかも室内には長い沈黙が続いており、更なる息苦しさをリスナーに体感させているようだ。  画面右側に居する生首の一つが身震いした。部屋の寒気に刺激されたのであろう、垂れてきた鼻水を即座に啜ってズズと音を鳴らす。それに少し遅れて横からは粋な音がカシュッと響いた。数秒後、もう一方左側の生首の前にはスーパードライロング缶と、それを掴む拳が現れた。指の一本一本がとても細い女のようなつくりをしたその拳は、ロング缶を上下させてはまた画面上からフェードアウトしてゆき、遅れてグキュと喉を越す音が響く。ズズとグキュの繰り返しだった。鼻と喉、二つが織り成すハーモニー。なんのこっちゃ。  元々は雑談枠の生配信であったこのタイムシフト映像だが、雑談枠としての見せ場がこの配信上にはまるでなかった。なので必然的にアクティブ視聴者数もまた1人減って、画面上に「当然の結果だ」と鮮明に表示された。 「あぁ…、またアクティブ1人になってしもうたが」  気弱な岡山弁で漏れ出た本音は、この配信でおよそ15分ぶりの発言であった。だがどこからも返答はない。  ザ・不健康ボーイズな彼らの行う『生首どあっぷダンマリ戦法』は、他の配信者が振り撒いている陽気さと比べるとかなり異質な存在感を醸し出していた。ただただ不気味だった。しかし、物珍しさはあるため初見リスナーは目を引くのだろう、しばらくはアクティブに留まって部屋の様子を伺っている場合が多いようなのだが、彼らが繰り広げているのはあまりに陰気なやり取りで、観ているだけで体感温度が五度は下がってしまいそうだった。  彼らの纏うサムいオーラに言葉が上乗せされた状態を目の当たりにすると、初見の殆どは一言も残すことなく、他の配信へあっという間に逃げていく。なのになんで私は逃げないのか。よっぽどの物好きなのか。
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