113人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
「お待たせー。」
私は完成したオムライスと野菜スープを美少年の前に置いた。
「ねぇ美和、このオムライス……」
「そのことには触れないの。さっ、食べよっ。」
美少年がニンマリしながらオムライスを見つめている。
私がトマトケチャップで、でっかいハートマークとその中にアキと描いたからだ。
「美和のラブラブオムライス頂きま〜すっ。」
触れないでって言ったのに……
わざわざ言わなくていいよ、恥ずかしいからっ。
オムライス好きなんだな。
結構大きめのを作ったんだけど、もう食べ終わりそうだ。
いいよね。こんだけもりもり食べてくれるのって。
「デザートもあるんだけど食べる?」
「うんっ!」
キラキラした笑顔で返事をする美少年……
もうっ、かわいいったらありゃしない。
私は台所に行き、チョコレートアイスを丸くすくいあげ、チョコシロップとハートのチョコとマシュマロをトッピングして飾り付けた。
バレンタインのつもりなんだけど……
トッピングのマシュマロにチョコペンで顔を描いたのだけど、微妙だな〜。
なんか小学生がお友達に送る友チョコみたいになってしまった……本命チョコには見えない。
案の定、美少年はお腹を抱えて大笑いした。
こんなに笑う?ってくらいずっと笑っている。
「もういいよっ食べなくても!」
「ごめん、美和。すごく嬉しいよ。このマシュマロは僕と美和?」
一応そのつもりなのだけど我ながらひどい出来だ。
「美和、あーん。」
美少年が自分の顔のマシュマロをスプーンに乗せて私に食べさした。
そしてアイスを全部たいらげてから、残していた私の顔のマシュマロをスプーンに乗せた。
「……美和のこと、食べちゃってもいいの……?」
「うん…?もちろん、どうぞ。」
なにを改まって聞いてるんだろう。
美少年はクスっと笑うと、人差し指で私の鼻先をつんつんと触った。
「こっちの美和のことを聞いてるんだけどな。」
えっ……私?
パクっとマシュマロを頬張る美少年が妙にやらしく見えた。
一気に心臓音が跳ね上がる……
私だって今日はそのつもりで部屋に呼んだんじゃないか。
落ち着け落ち着け、私のハート。
「美和……好きだよ。」
私だって好きっ……
そう応えたかったのに、さっきまで無邪気でかわいいなって思っていた美少年に力強く押し倒され、言葉が出なくなってしまった。
そうだ…美少年は男の子じゃなくて男なんだ……
このまま、私達はきっと最後まで……
どうしよう…私、うまくできるのかな。
私の方がずっとずっと大人なのに、動けないくらいに緊張してしまっていた。
美少年が顔を近付け…私の唇にそっと触れる……
アイスを食べたせいか、とてもヒヤッとした感触がした。
その冷たさに、私の中で不安が広がっていく……
「美和……いい?」
美少年が真っ直ぐな目で私のことを見つめてきた。
いいよと言いたい。
言ってあげたいけれど………
今そうなったとしてこの先は……?
12歳差はどうやったって縮まらない。
麻里のところみたいに婚約して結婚してって……
そんなことが私達に出来るの?
いつか別れる日が来るのなら
そんな深い関係になっても虚しいだけじゃないの?
付き合うと決めた時からそんなことは分かっていたはずなのに……
どんどん、どんどん……
言いようのない不安が広がっていった─────
美少年は私の上から離れると、腕を引っ張って起こしてくれた。
「今日は帰るよ。」
………えっ?
立ち上がろうとした美少年の腕を慌てて掴んだ。
今私が考えてたことが顔に出てしまったのだろうか?
美少年のことを拒絶しているように見えたのかもしれない……
誤解なのに…私はただ───────
「ごめんっ…ごめんなさい!」
大好きな彼なのに傷付けてしまった。
───────私はただ…怖かったんだ。
深い関係になって
これ以上、好きになってしまうのが………
「なんで美和謝るの?僕怒ってないよ?」
「だって…急に帰るって……」
「……僕も美和と同じ気持ちだから。」
美少年は私の手を取り、自分の胸に押し当てた。
「すごくドキドキしてるのわかる?」
美少年の心臓の音は、私と同じくらい早かった……
「好きだからもっと触れたくなるけど、好きだから触れるのが怖くなる。美和もそうでしょ?」
───────そうだった………
美少年には私の考えてることなんて筒抜けなんだ。
それはいつも私に対して純真なくらいに真っ直ぐだから……
私以上に
私のことをいつも考えてくれているから─────
「今日は僕の名前を呼んでくれたから、それで充分。」
「でも私、自分で部屋に誘ったのに……」
自分の恋愛経験の無さがつくづく嫌になる。
美少年は少しため息を付くと、首を左右に振った。
「僕もまだ美和と手をつなぐだけですごく緊張するんだ。正直、キスするだけでいっぱいいっぱい。」
えっ………
美少年を見ると、照れくさそうに笑っていた。
私は自分の方が12コも年上だからと、そればかり考えて気を張っていた。
そうだよ…美少年だってまだ中学生なんだ……
「だから、僕と美和は、自分達のスピードで進んでいけばいいんじゃないかな?」
私も美少年もまだまだ恋愛初心者だ。
無理して、焦る必要なんて全然ないんだ……
「ゆっくりでいいよ。僕はこの先もずっと…美和を離すつもりなんてないんだから。」
「……なんか…プロポーズみたい……」
「あれ?そのつもりで言ったんだけど?」
美少年がおどけたようにペロッと舌を出した。
どこまで本気なのか冗談なのか…それでも、美少年がずっと離さないと言ってくれたことがすごく嬉しかった。
年の差なんて関係ない……
私も、この先もずっと…そばにいたい。
美少年は私を引き寄せ、優しく抱きしめてくれた。
耳に聞こえてくる心臓の音が
すごく…心地よかった───────
「本当に泊まっていかないの?」
「う〜ん…さすがに朝までは理性が持ちそうにないから。」
理性をなくした美少年なんて想像つかないんだけどな。
じゃあと言って美少年は私に手を振り玄関のドアを開けようとした。
「待ってアキっ。」
私が名前を呼んだので、美少年は驚いたように振り返った。
「……アキ、大好きだよ。」
自分で言っといて大赤面だ。
でもこれだけはちゃんと伝えとかないとって思ったんだ。
「ちょっ……」
美少年の顔も一気に赤くなった。
「なんでそれを今言うかな…帰りたくなくなるじゃん。」
美少年は少し迷ったあと、遠慮がちに私の手を握った。
「……もうちょっといてもいい?」
チョコレートみたいに甘〜くとろける夜は
まだまだ続くのでR(あ〜る)。
最初のコメントを投稿しよう!