あなたに贈っておきたい言葉

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
 遠くにいる恋人に、贈っておきたい言葉があった。電気がなければどうにもならないメールやラインではなく、便箋など、できればいつでも見れる形にしたかった。  その言葉は、長くも多くもない。  そう、たとえばお守り袋に忍ばせておけるような、一言、二言だ。  それを、珠美はずっと考えていた。  そして、未曾有と言われた台風の過ぎた朝、その言葉は見つかった。    少し話がさかのぼるが、現在恋人である時彦と出逢った当時、珠美は暗闇のなかにいた。  彼と出会って愛しあい、そして、一番まぶしい思いで聞いた一言が、珠美を変えた。  ───『おはよう。』  人生に幾度、夜のような闇が訪れても、かならずまた、この言葉を贈り合えますように。  珠美は愛用している万年筆を取り出し、一筆箋にその4文字を丁寧にしたためた。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!