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遠くにいる恋人に、贈っておきたい言葉があった。電気がなければどうにもならないメールやラインではなく、便箋など、できればいつでも見れる形にしたかった。
その言葉は、長くも多くもない。
そう、たとえばお守り袋に忍ばせておけるような、一言、二言だ。
それを、珠美はずっと考えていた。
そして、未曾有と言われた台風の過ぎた朝、その言葉は見つかった。
少し話がさかのぼるが、現在恋人である時彦と出逢った当時、珠美は暗闇のなかにいた。
彼と出会って愛しあい、そして、一番まぶしい思いで聞いた一言が、珠美を変えた。
───『おはよう。』
人生に幾度、夜のような闇が訪れても、かならずまた、この言葉を贈り合えますように。
珠美は愛用している万年筆を取り出し、一筆箋にその4文字を丁寧にしたためた。
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