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明智邸は、帝都の中心から少し離れた閑静な住宅街にある。
現当主の明智小五郎の祖父が建てた、重々しいイギリス式の石造りの洋館だ。
広くはないが、色とりどりの華やかな花々が咲き誇る庭園。特に五月中旬になると一斉に花開くバラが自慢だ。
文代は三年ほど前に明智小五郎と結婚して、一人の女中と共にこの館にやってきた。
文代の兄と明智が友人関係であり、両親としても、小五郎の穏やかで理知的な人柄を気に入っていたため、明智家から結婚の話がきたときにはとても喜んでいた。
九月下旬の穏やかな日差しの中、文代は庭を一望できるサンルームで紅茶を飲んでいた。
まだ紅葉になる前の青々とした木々の葉を眺めていると、書生がやってきて来客を告げる。明智邸には現在2人の書生がいる。そのうちの一人がちょうど外出しようとしていたところ、門の前で声をかけられたので案内してきてくれたらしい。
「どなたかとお約束があったかしら?」
文代がそばにひかえていた女中に問いかけると、女中はどこか憮然としたようすで首を降った。
「いいえ、本日この時間には予定がはいっておりません。お断りしてきましょうか」
「あの・・・・・・」
女中が玄関に向かおうとすると、書生がおずおずと声をあげた。
「警察の方だそうです」
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