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 文代が応接間に入ると、黒い背広の男が二人、立ち上がって会釈をした。 いかにも、ベテランと新人の刑事二人組といった様子だ。 着席を促し、自分も向かいの席に座ると、女中によってテーブルに紅茶が一つ置かれる。刑事二人の前に置かれているカップからもまだ湯気が立ち上っているところを見ると、あまり待たせずにすんだようだ。 「突然伺って申し訳ございません。私は高岡、こちらは笠森と申します」 愛想のよい笑顔で自己紹介をする高岡に対し、笠森の表情は硬い。緊張している訳ではなさそうなので、不機嫌なのか、もともとそういう顔なのだろう。その笠森の様子をちらりと横目で見ながら、高岡が続けて言う。 「早速ですが、少々お話を聞かせていただきたい。近頃世間を騒がせている事件をご存じですか?」 「事件と言いますと、新聞に載っていました『連続自殺事件』ですか?」 「そうです。我々はその事件を担当しております。」  通常であれば、自殺が事件と呼ばれ、新聞の一面になるほど大きな話題になることは少ない。しかし、今回起きているこの『帝都連続自殺事件』は、奇妙な点があることが判明し、警察は事件として捜査することを決定したのだ。 遺体の状態だ。 この半年に十数件も、奇妙な状態で発見されていることから、警察はこれを事件とした。 「しかし、その『奇妙な状態』とやらがどのようなものか、新聞には載っておりませんでした。ですから、私が知っているのは、帝都で奇妙な事件が起こっている、ということだけです」 お役に立てそうにないのですが、と文代が少し困ったように言うと、これまでだんまりを決め込んでいた笠森が苛立ったように口を開いた。 「白々しい!自殺の状況は知らずとも、被害者のことは知っているだろう!被害者のうち三人は、明智夫人、あなたと面識がある!」 笠森はその黒い目をぎらぎらとさせて文代を探るように見ている。 にっこりと口角を上げながら、文代はまっすぐに見つめ返す。 笠森の眉間にしわが寄ると、ふっと小さく笑い声を漏らした。 「六月に亡くなった高橋さん、七月に亡くなった田中さん、そしてつい先日亡くなった早川さん。確かに私はこの三名のお名前には心当たりがございます」 文代はカップを持ち上げて紅茶を飲むと、再びどこか楽しそうに笠森に言う。 「それにしても、笠森さんは『被害者』という言葉をおつかいになるのね。警察では、今回の事件は自殺ではなく他殺の可能性があると考えられている。そして、私も容疑者の一人といったところかしら」 笠森の眉間のしわがぐっと深くなる。 「しかし困りましたね。どうしましょう。何をお話ししたら良いのでしょうか。新聞には詳しいことは書かれておらず、明記されていたのは氏名とご遺体の発見日時くらいでしたから、この方々が同姓同名の人ではなく、本当に私が知っている人であるのか確信が持てません」 「・・・・・・あなたが我々に協力してくださるのであれば、こちらも情報を開示します」 静観していた高岡が、鞄から数枚の資料を取り出す。 文代が頷くのを確認すると手渡した。
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