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 高岡と笠森は警察署に戻るため、帝都の街を移動していた。 「なぜ、情報を得る前に明智邸を出たのですか」 いかにも納得がいかない、といった様子の笠森に苦笑する。 「明智夫人はアリバイがしっかりしていて、早々に容疑者から外れただろう」 「それは理解しています。けれど、『この後は先約があるから』と言われてすごすごと引き下がるなんて!」 まあまあ、となだめながら小声で告げる。 「正直なところ、明智夫人からの情報はそれほど当てにしていない。狙いは明智小五郎だ」 「え?三年程前から失踪している、あの明智小五郎ですか?」 笠森は怪訝そうな顔をした。  明智小五郎は父親が急病で亡くなったため、若くして事業を継いだが、持ち前の知識と人柄の明るさを評価され、『明智家は安泰だろう』と言われていた。 しかし、三年前の春に突如失踪したのだ。もちろん、大きな話題となった。 明智小五郎はまだ若く、跡継ぎなどもいないし、男兄弟もいなかった。事業の運営は誰が行うのか。水面下で争いが起きるより早く、「夫の留守に家を支えることが妻のつとめ」と声を上げたのが文代だった。それからは文代が当主代理となっている。 「世間知らずの『ご令嬢』が、明智家という大きな会社を運営できるはずがない。しかも、この三年で事業を拡大してすらいる。夫人は、本当は明智小五郎の居場所を知っていて、小五郎の指示通りに会社運営を行っているのではないか」 「なるほど。確かに、夫が失踪したというのに、『家出しているだけです。心配などしておりません』と言ったらしいですからね」 「そうだ。居場所がわかっていて連絡も取れるならば、心配などしないだろう。そして、夫人は自分が今回の事件の容疑者であると思っている。小五郎に連絡を取って、自分の潔白を証明するために事件解決の依頼をするかもしれない。」 「つまり、高岡さんは明智小五郎にこの事件を解決させようとしているのですか?」 「ああ、あの名探偵に早く解決してもらって、奇妙な自殺を終わらせたいのさ」 高岡はどこか疲れたように空を見上げた。
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