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 笠森は警察署へ戻る道をゆっくりと歩いていた。 今、自分の手元にある紙束は貴重な情報だ。これによって、事件は陰陽寮へと流れてしまうかもしれないが、今回の事件はまだ続いているのだ。一刻も早く自殺を止めなければならない。犯人を正しく裁くことよりも、これ以上の犠牲者を出さないことを優先すべきではないか。  釈然としない想いを抱えながらも、高岡へ情報を渡す決意をして歩みを早めた。周囲は日が落ちて暗くなり始め、街灯が道を照らしている。急いで戻れば、まだ警察署に高岡がいるかもしれない。人々で賑わう大通りを進んでいると、ふと一点に目線が引き寄せられた。 高岡だ。 高岡が路地へと入っていく姿が、行き交う人々の隙間から見えた。 確かにもう、就業時間は過ぎているのだから、高岡がどこで何をしていようが口を出すことではないだろう。しかし、妙な胸騒ぎをおぼえて跡をつけることにした。  刑事の仕事では容疑者を尾行することもある。しかし、今回は自分よりはるかに経歴の長い刑事が相手だ。気を抜くとすぐに気がつかれるだろう。あれから二・三度、路地の角を曲がってどんどん細い道へと入っていく。左折した高岡の背中が見えなくなったことを確認すると、素早く三叉路(さんさろ) へ向かう。そっと角から顔だけだして様子をうかがうと…… 「……え?」 そこは袋小路だった。 三方を囲む建物の窓は採光のためではなく、換気のためだけにあるのか非常に小さく、人が通れる大きさではない。また、どの建物も二階以上あるので、音を立てずに飛び越えたりよじ登ったりすることは不可能だろう。つまり、人が通れるのは笠森がのぞき込んでいる道のみなのだ。 しかし、そこに高岡の姿はなかった。突如として消えてしまったのである。
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