患う親父

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 目の前の景色に(ひる)むが、少しずつでも足を引きずっていく。そのスカートを震える手で寄せて見ると、これは、妹のスカートだ!そこから離れて警察を呼ぶのだと心掛けてスマートフォンを出して指をできる限りで精確に数字に押させるが、二度も間違えてしまってさらに直して電話をかけようとした。  「もしもし、こちらは・・・」  「俺のところは今!事件が起こ・・・」  と言おうとすると、後ろに何かのものが落ちた音がした。直後、スマートフォンが取り上げられてしまって俺は無言となる。心が乱れて振り返る勇気さえ失ってしまった。  「もしもし?もしもし?」  スマートフォンからの声がはっきりと聞こえて、その声は部屋の中で広がっていく。  「もしもし?もし・・・ビー・ビー・ビー・・・」  電話が切られた。  「困るなあ。ばらして・・・」  と後ろから聞き慣れた声を聞きたくないとしても、やがて流れて俺の耳に入ってしまった。そして金属の質感の何かが首に当たってしまっている。  がたがたと震えながらも、そのものの幅の広さと冷たさは感じてしまう。さらにそのものの鋭さにはすぐにも切られそうな気もしてくる。  <終わり>
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