天女とおじいさん

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 僕は、その本を取った。  そのぼさぼさする末端をできるだけ潰さないように、開いた。日記帳だった。  「1939年、7月。俺は家出をしようと硫黄山に行った。結果としては失敗だったが、神社の奥にある女性の石像が光って石が崩れてやがて天女(勝手に付けた名前)が降臨した。暖かい光に包まれていつの間にか寝てしまった。気づいたらすでに朝だった。目の前の石像には昨夜で崩れた痕跡がなく、元に戻ったようだ。正直に言えば、天女の顔さえ見えなかったけれども、再び会えるように、なんとか生き残らないとと思いながら、家に戻った。が、相変わらず母が怒り出して鞭で打って懲らしめられていた。そのとき、ある言葉が心で響く。「20歳になったら」と。」  「1941年、7月。俺は再び硫黄山を登った。神社に辿り着けたのは二年前と同じ時間だと思ったが、石像は石像のままだった。けれども、石像の下に刻み文字ができている。「次は40歳になったら」と記されている。そうか、あと四回か。二十年か。それでも待ち続ける。」  「1961年、同じく7月。親が亡くなった。そして、いつの間にか、里で噂が流れている。俺が変だと。だが、それは俺にとってどうでもいいのだ。俺はうそをついていない。相変わらず、俺に会ってくれなかったが、声は聞こえた。「会いたいなら、60歳になったら。」と、天女からの声だった。次こそ絶対会ってみせる。」
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