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「なんでだよ!あのバカ・・・」
女性はしゃくり泣きを始めた。手はその箱を強く握り締めていた。
「「あの人には言わないで」と言われましたが、やっぱり知らせた方がいいと思って・・・」
「すいません。私、これから行かないといけない場所がありますので、これで・・・」
女性は一度目を閉じて深呼吸して、その箱をカバンにしまる。さっと立ち上がり、会計を済ませて外へ歩き出した。
女性は歩くのをやめて、駆け出す。町中の人をすっと通り過ごして、女性に人々の目線が集まってくる。女性はそれを気にせず、ひたすらに走り続ける。
坂道を登って、また坂道を降りて、ついに目的地にたどり着いた。
そうだ。あそこだった。人気のない神田川の架け橋の傍に、三ヶ月前に咲き誇った桜の木は一変し、人々の目を気にせずに枝を露出させ、活気が奪われたようにだるそうに枝を垂らしている。周知、桜の寿命は短い。桜は嫌でも二ヶ月以上、その状態を続けさせられたはずだ。
走り疲れた女性は両手を膝につき、死にかけの金魚のように喘ぐ。数秒後、自分に休憩も入れようともせずに姿勢を正し、架け橋に登った。疲れがまだ取れていなかったのか、今度は走らずゆっくりと歩き続ける。
ようやく架け橋の三分の二のところに着き、女性は足を止めた。遡ってみれば、ここは呼び止められた場所に違いなかった。
「このバカ!」
女性は川へ叫び出し、走りの振動で乱れたカバンの中身を荒々しくひっくり返すように乱して箱を探す。まるで発病してしまいそうな病人がその治療する薬を急いで探しているように見えた。
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