石を追いかける

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石を追いかける

 私は雷門を通って、浅草寺の大通りにいる。  着物の少女たち、外国人の観光客などに依って、この大通りは雑踏している。繁華街とは言われたものの、あまりにも賑やかすぎて、純粋に前へ進むことはおろか、人々の肩を避けながら進むことができた。  ところが、あの時、きらめく宝石のようなものが地面に落ちているのに気づいた。あまりのキラメキで、何十本の足の数でもその光を遮ることができない。けれども、誰も気づいていないようだ。  人々の誰もがただ単に隣の人と雑談しながら、忙しく通り過ぎていく。その石にはまだ距離がある。極めて右の方にあるおもちゃの店の外に繋がる上り階段の下に静かに横たわっている。  この大通りを横切ることは決して簡単なことではない。進むというより、むしろ後ろの人に前へ推されて歩かされている。実に実感するものだ。私は石の方向へ目線を注ぎ続けているが、体は充実して前へ歩かされている。やがて視線からその石を消えてしまい、一瞬に体が止まった。  「すいません!」  と言い続けて横切っていく。それは自己の意志で行っている訳でもない気がする。肩を避けながら、なんとかなって通り抜けておもちゃ屋の屋根に着けた。
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