石を追いかける

5/9
前へ
/81ページ
次へ
 そこにいるおばあちゃんは「いらっしゃいませ」と口で繰り返すが、誰も見てくれやしなかった。突っ込めた人はひたすら見回って石を探し出そうとする。  「あった!」  と奥にいる人が叫び出した。一瞬にして奥に人が寄り集まる。しかし、石はまた飛んだ。今度はおばあちゃんの手のひらに止まった。おばあちゃんは手のひらに止まっている石を凝視し、目玉を動かそうともしない。また人々が寄ってくる。  「おばあさん、それは僕のです。どうか返してください。」  と後ろからおばあちゃんに近寄る人が出てきた。  「うそつけ!おまえのもんじゃねえぞ!」  「そうなんですよ!なんてふざけた言葉!」  と次々に指摘する人の声も聞こえる。しかし、おばあちゃんはどうやら信じている。手であの人を前に招いて、石を渡そうとする。あの人は喉仏を動かし、唾を呑み込んだに違いない。そして右手を出した。
/81ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加