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この先生、いつ会っても「なんでこんな生徒をうちの学校に入れたんだ」って言いたそうな顔してる。知らないし。私は近くて公立だからこの学校を選んだだけ。私を入学させたのはそっちじゃないの。  学年主任の後ろには、もうひとり教師が立っていた。たしか……現文の結城先生。純ちゃんは「影があってちょっとかっこいい」とか言ってたけど、どこが? って感じ。雰囲気はイケメンと言えなくもないけど、目の奥が暗くて、なんとなく心ここにあらずな気がする。こういうやつが犯罪者になったりするんじゃない? もしこいつが事件を起こしてマスコミにインタビューされたら、「絶対やると思ってました」って答えようっと。 「じゃあ結城先生、あとはお願いしますね」 学年主任はそう言って、資料室を出ていった。結城先生は室内に入ってきて、私の前に座った。じっと見てきてキモい。私はスカートの裾を引っ張って膝小僧を隠した。 なんかしてきたら叫んでやる。結城先生は私から目を離し、窓の外に視線をやって穏やかに言った。 「桜ももう終わりだな」 「別に終わっていいよ。私、桜って嫌いだから」 結城先生が不思議そうに「どうして?」と尋ねてきた。むしろなんで好きになれるのかわかんない。ちょっとずつ散っていくのを見ると、なんだか憂鬱になってしまうのだ。そんなことを教師に言ったところで、おまえは変わってるなとか、もっと素直に考えろって言われるだけのような気がした。 「そんなことどうだっていいじゃん。早く用件を言ってよ」 私のタメ口にも構わずに、結城先生はあっさり頷く。 「じゃあ、本題に入る。朝読書を放棄してるらしいな、桜庭」 「だって、だるいもん」 うちの学校では、毎朝10分の「朝読書」タイムが設けられている。2週間で一冊読み切るのが目標で、月に2回感想文を提出しなくてはならない。私は本を読むと死ぬほど眠くなるので、読書の時間はいつも机に突っ伏して寝ている。もちろん感想文なんて書く気はない。 「なんでそんなもの書かなきゃなんないの?」 私の問いに、結城先生はゆったりした声で答えた。 「一行でも二行でもいいから書いてみてほしい。桜庭がどう思ったか、知りたいんだ」 「なにそれ、キモイんですけど。私がどう思おうと自由じゃん」 鼻を鳴らしたら、結城先生がふっと笑った。 「似てるな」 「え?」 「君は、俺の知ってる子にそっくりだ」 なにそれ、口説いてんの? 教師が生徒にそういうこと言っていいわけ? そう言おうと思ったけど、結城先生の目を見て口を閉ざした。先生の目は確かにこっちに向いているのに、私を見ていなかった。ここにはいない誰か。多分、私にそっくりな女の子のことを考えてるんだと思った。そんな目をする大人を初めて見たから、なぜだか胸がざわざわした。なんなのよ。先生のくせに生徒を不安にさせないでよ。 「どんな本でもいい。感想文を書いたら、俺のところに持ってきてくれ」 結城先生はそう言って席を立った。え? それだけ? 部屋を出ようとする結城先生に、私は慌てて声をかけた。 「ちょ、ちょっと」 振り向いた結城先生が首をかしげる。なんか言わなくちゃ。そう思って、とっさに尋ねる。 「ねえ、私に似てるって彼女とか?」 「いいや」 「じゃあ、奥さん? それともきょうだいとか」 「感想文を書いてくれたら話すよ」 結城先生は微笑んで、部屋を出ていった。なにそれ、教師のくせに取引きとかしていいわけ? もったいぶってんじゃないわよ。私はぶすくれて、閉まった扉を見た。
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