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放課後、私は純ちゃんと一緒に図書室に来ていた。本棚の向こう側にいる純ちゃんが口を開く。
「咲ちゃんが図書館に来たがるなんて珍しいね。本読むの嫌いって、いつも言ってるのに」
「嫌いだよ。でも、結城が感想文出せとかいうから」
「えっ。さっきの呼び出し、結城先生だったの?」
純ちゃんの声はちょっと羨ましそうだった。純ちゃんって、いい子だけど男の趣味が悪い。私の勘だけど、あいつはやめといたほうがいいって。なんとなくだけど、やばい感じがするもん。
「学年主任に頼まれたみたい。ほんとはどうでも良さそうだった」
私はできるだけ薄い本を抜き出して、パラパラめくった。学級文庫にも本はあったけど、どれもこれも古臭くてつまんなそうだった。あんなの、大人だって読む気にならないだろう。純ちゃんが本棚の向こうから声をかけてくる。
「でも、よくやる気になったね。咲ちゃん、結城先生のこと好きじゃないでしょ」
「好きな先生なんていないし」
ただ結城先生が言っていた、私に似ている女の子のことが気になっていたのだ。3つ目の棚を物色しているうちに、選ぶのが面倒になってきた。もうこれでいいや。私は「西の魔女が死んだ」という本をカウンターへ持っていく。薄くて読みやすそうなのと、タイトルに「死んだ」って入ってるのが気に入った。最後に誰か死ぬ話は、感想が書きやすい気がした。たとえなんの感想も持たなかったとしても、「〇〇さんが死んで悲しかったです」って書けばいいんだから。
職員室で感想文用の紙をもらって、純ちゃんと一緒に学校近くのファミレスへ向かった。ファミレスの出入り口には、「時給 860円 バイト募集」と書かれた張り紙がされていた。きっと志望者が来ないのだろう、4月の頭からずっと貼ってある。いつも思うけど、人手が足りないならセルフサービスにするとか、タッチパネルで注文するシステムに変えればいいのに。人を雇うより、そっちのほうが絶対簡単だよね。
私たちは禁煙席に座って、ドリンクバーを注文した。純ちゃんは宿題をし、私は本を読む。いつもなら文章が目に飛び込んでくるとうんざりするのに、その本はすごく読みやすかった。本を読む前に取りに行った烏龍茶は手つかずのまま。気がついたら本に没頭して2時間が経っていた。純ちゃんは宿題を無事終えたみたいで、ノートを閉じてこちらに視線を向けた。その顔が驚きの表情に変わる。
「咲ちゃん?」
そこで私は、自分が泣いていることに気づいた。泣いてるのを見られるなんてかっこ悪い。慌てて目元をぬぐっていると、純ちゃんがハンカチを差し出してきた。そうしてしみじみと言う。
「咲ちゃんが感動するなんて、よっぽどいい本なんだねえ」
私は涙をぬぐって、ポツリと呟いた。
「……ムカつく」
「え?」
「本なんかに泣かされてムカつく。つまんなかったって書いてやる」
「や、やめなよ。いいじゃない。素直に面白かったって書けば」
純ちゃんはオロオロしている。むかつくけど作者に罪はないので、親と祖母の板挟みになった主人公の気持ちがわかることや、童話みたいな雰囲気なのに怖いシーンもあったこと、感動して泣いたことを書いておいた。
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