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純ちゃんと別れて自宅アパートに帰ると、母の靴が玄関にあった。珍しく早いんだ。中からはいい匂いが漂ってくる。靴を脱いでリビングに向かうと、リビングに併設したキッチンで母が料理をしていた。彼女はこっちを見ておかえり、と笑う。 「ただいま」 私はソファにカバンを放って、自分の部屋に向かい私服に着替えた。姿見には、みんながキレイだ、可愛いと褒める姿が映っている。昔は、容姿を妬まれていじめられることもあった。美人だからそんなにぶすっとしてられるんだよね、と言われたこともある。じゃああんたはブスだからニコニコしてるわけ? と聞き返したら泣かれた。 口と性格が悪いせいか、友達は純ちゃんしかいない。 キレイだからなんなんだろ。キレイって言われても、私は嬉しくも楽しくもない。だって自分で努力してこの容姿になったわけじゃないもん。リビングに向かうと、母さんが料理を並べていた。食卓について手を合わせたら、今日はどんなことがあったかと尋ねられた。これは幼稚園のときからの習慣で、夕食前には一日にあったことを話す流れになっているのだ。 「告白された」 「また?」 「母さんは? 告白される?」 「私はないわよ。もうおばさんだから」 「告白とか、まじでうざいよね。ブスだったらそういう面倒もなかったのに」 「そんな事言わないの」 母さんはやんわり私をたしなめた。でも母さんは、自分が美人だってわかってるはずだ。だって嫌でも周りがちやほやしたり、褒めたりしてくるはずだもん。 うちには父親がいない。母さんはシングルマザーとして私を16年間育ててきた。美人で独身なのだから、普通の子持ちより言い寄られる率も高いだろう。 私は、テーブルの上にはがきが乗っているのに気づいた。鎌倉に住んでいるおばあちゃんからだ。読んでみると、今度そちらに行っていいかという内容だった。母さんは私の視線に気づいて、はがきをひっくり返した。昔何があったのかは知らないけど、母さんとおばあちゃんは微妙な関係だ。私はおばあちゃんのことは嫌いじゃない。おこづかいをくれるし、優しいし。でも、なぜか時々私のことを「ハル」って呼ぶのだ。ハルとは誰なんだと母さんに聞いたら、暗い表情で妹だ、と返ってきた。母さんの妹。つまり、ハルさんは私のおばさんなのだ。ハルさんは白血病にかかっていて、16歳の時に亡くなったらしい。つまり私と同い年。そんな年齢で死んじゃうなんて、可愛そうだなと思う。 きっと、おばあちゃんも母さんも肉親を亡くして辛かっただろう。ハルさんの死が、二人の間に亀裂を作ってしまったのかもしれない。 昔何があったのかは聞けていない。無理に聞き出そうとも思わない。私は性格が悪いけど、二人を傷つけたいとは思わないからだ。将来のことなんてわからないけど、もし鎌倉に就職できたら、おばあちゃんと一緒に住もうと思っている。
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