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翌日、感想文を持って職員室を訪れると、結城先生が大知先生に叱られていた。
「困りますなあ、そんなゆるいことでは」
「桜庭は新しい環境に戸惑っているんだと思います。適応できるまで待ってあげましょう」
結城先生はのんびり答えている。大知先生がすかさず反論した。
「いいや、ああいう子は甘やかすとつけあがるんですよ」
はいはい、どうせ問題児ですよ。
わざと大きな音を立てて扉を開けると、先生たちがこっちを見た。私は結城先生に近づいていって、感想文を差し出した。
「感想文、持ってきました」
「そうか。早いな」
「結城先生の話の続きが気になって」
ちらっと大知先生を見ると、顔を真っ赤にしてその場を離れていった。ざまあない。
結城先生は私に椅子を勧めて、感想文に視線を落とした。感想文を読み終えた結城先生は、かすかに笑みを浮かべた。
「これ、いい本だよな。俺も好きだ。児童書なんだけど、大人になってから読んでも感動するし……」
よっぽど本が好きなのだろう。本の話をする結城先生の表情は、いつもより明るかった。そういう顔してると、悪くないじゃん。
って何考えてんだろ、私。目が合ったので、ぷいと顔をそらす。
「言っとくけど、これがたまたま面白かっただけだから。他の本は嫌いだから」
「そうか。また気が向いたら読めばいい」
結城先生はそう言って、感想文をファイルに挟んだ。そのままデスクに向き直る。って、ちょっとまってよ。
「話してよ、私に似てる人の」
そう言ったら、結城先生はキョトンとした。そんな約束したか? って言いたげな顔。ほら、大人ってすぐ約束を忘れるんだ。だから信頼できないんだよね。結城先生は顎に手を当てて考え込んでいる。話したくないって言うより、話す順番を考えてる感じだった。
「どこから話そうかな。ちょっと長い話になるんだ」
結城先生は腕時計に目を落とした。私は気軽に提案する。
「じゃあ、今度の休みの日、外で会おうよ。近くにファミレスあるでしょ?」
「いや、それは……」
「来なかったらもう本読まない」
別に私が本を読もうが読むまいが、結城先生には関係のない話だ。でもその言葉は、意外なほど効いたようだった。
「……じゃあ、10時に」
「わかった。じゃあね」
私は職員室を出て、スマホに予定をメモした。先生と話すなんてだるいとしか思ってなかったのに、なんでこんな約束してるんだろ。でも、気になる。私に似てるその人のことが。
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