血濡れの悪魔

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血濡れの悪魔

 ピピピッという耳障りな電子音で目覚める。遮光カーテンで光を遮られた部屋は暗く、その電子音だけが僕に朝を知らせる唯一の物だった。 「……ん…」  重い体を起こし、カーテンを開けると予想より明るい光に思わず目を細めた。…まぶしい。    それにしても体が重い。  確かに昨日はゴミ処理に時間が掛かったため、家に帰りついた時間は深夜だった。だが、それでも昨日より大変なことはこれまでにも多く経験している。それでも、こんなに体が重くて布団から出たくないのは初めてだ。 「はぁ…仕事、行きたくないかも……」  時間的に、結局そうも言ってられず渋々布団から出た。確か今日は一限から講義が入っている。  仕方なく部屋から出て、顔を洗い、歯を磨く。朝ご飯は食べない主義の為、着替えてそのまま家を出た。 「うぇ……」  失敗した。今日は確か今年最低気温を記録するって、誰かが言ってたっけ。なんてことだ。滅茶苦茶寒い。吐いた息が真っ白な煙となって、体から出ていった。  黒のパンツに白いYシャツ、その上にベージュのニットを着て更に黒のトレンチコートを着てきたが、マフラーと手袋も持ってくるべきだったと思う。あと、ユニ○ロの極暖のヒートテック。周りのすれ違う人々は皆一様に、モコモコと体を防寒している。いいなあ。  仕方ない。早く大学に行こう。そして、暖房の中に入ろう。 「うぅ……さむっ…」  早足で歩くこと十五分、やっと大学が見えてくる。それと同時にチラホラと見知った学生達も増えてきた。 「あ、教授おはよー」 「うん、おはよう」 「黒羽教授、おはようございます」 「おはよう。今日も寒いね」  大学が近づけば近づくほど、鼻を真っ赤にして僕に笑顔で挨拶をしてくる子達が増える。やっぱり素直な子って良いよね。うん。  すると、僕と挨拶をした子達がヒソヒソと話すのが聞こえた。 「え、あの人教授なの?私達と見た目変わらないじゃない」 「知らないのー?去年からいるよー。てかさ!イケメンだよね!!」 「うん、格好いい!しかも、教授ってことは頭も良いんだよね!?」 「そうそう!!確か、人文学部の心理学科だっけ?」 「へー、いいなぁ。私もあの人に教わりたい!」  そう、僕はここT大学で教鞭を取っている。だから、皆からは教授と呼ばれている。まあ、別段それを誇る訳ではないが、花盛りの女子大生に褒められるのは男として気分が良い。うん、今日は良い日だな。 ***  チャイムが鳴り、講義の終了を知らせる。それと同時に講義室中の生徒達の力が抜けた。机に突っ伏す者、椅子にしなだれかかる者等々、様々である。 「───じゃあ、今日はここまでね。分からないことがあったら聞きに来て」  はあ、疲れた。まだ一限しか終わってないけれど、どうにも体が怠くて仕方がない。今日は早めに帰るか。 「教授、今日はお暇ですかー?」  そこへ一人の女子大生がやってきた。化粧を軽く施し、明るく染めた髪を優雅に下ろしている。確かこの子は…ミスT大、だったかな。 「うん?暇ならどうなの?」 「えっとー、マンツーマンで分かんないとこ教えて欲しくて」  あざとくなりすぎないような上目遣いに、あくまで勉強の為だと言う建前。もちろん、可愛い女の子に誘われるのは嬉しいけれど、立場上宜しくない。それに、今日は早く帰りたい。 「う~ん…ごめんね。マンツーマンは駄目かな。せめてもう一人連れておいで。それなら図書館で教えてあげる」  見え透いた牽制と、拒否。それが分からない子でもない。結局、少し口を尖らせてはいるが、分かったと潔く引き下がる。 「じゃあ、また講義がある明後日よろしくね!!」 「うん、いいよ」  他に質問がありそうな子がいないことを確認して、職員室へ戻る。道すがら教え子に挨拶をされながら、それに笑顔で返した。  ほら、こうやって暮らしていればいいんだ。 「なあなあ、昨日のニュース見たか?」 「あぁ、ひでぇよな。確か足が切られてたんだっけ?うぇ…」 「でも、そのサラリーマン横領してたらしいぜ。警察が調査の為に、被害者の身元を調査してたら悪どいことやってる証拠がすっげぇ出てきたって」 「因果応報なのかもな」 「なー」  ほら、こうやって暮らしていれば彼らは気付かない。  こんなに近くに闇があることなんて、ね。  ははっ。  ほんと、素直でおバカな子は可愛いよね。 「君たちー、もうすぐ二限目始まるよー」 「うわぁ!黒羽教授!」 「ほんとだっ、ありがとうございます!行くぞ!」   「走ると危ないよー、ってね…………あははっ」
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