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店が落ち着いたのを見て、祖父が休憩に入った。
店内には窓に面したテーブルで話に花を咲かせていらっしゃるご婦人2人と、目の前のカウンターでうっとりと目を閉じてコーヒーを堪能している佐伯さんだけ。
佐伯さんは最近常連さんになったお客様で、あまり話さないけれど、とても親しみを込めた目を向けて祖父や僕と接してくれる。
年齢は31,2と言ったところかな。
時々ぼーっと僕の動きを目で追っている事がある。僕を、と言うより僕の向こうをと言った方が正解な気がする。本人は全く気づいていないと思う。
その証拠に、僕と目があっただけであたふたするくせに、その時だけは目があっても何のリアクションもない。
落ち着いた物腰なのだけど時に何やら1人慌てたりして面白い。派手さはないけれど、どこか滋味のある暖かさがにじみ出ている。だから佐伯さんが来店されると僕は少し安らぐ。
この人になら…とふと甘えた気持ちになってつい口にしてしまった。
「僕昨日失恋したんです」
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