マンデリン

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マンデリン

「喫茶店」という名前の喫茶店は豊かな白髪(はくはつ)を綺麗に撫でつけ、口ひげをきちんと揃えたマスターと「かんちゃん」と呼ばれるマスターの孫の幹司(かんじ)君の二人がやっている。    マスターは白シャツに蝶ネクタイに赤いエプロンのいかにも喫茶店のマスターらしいスタイル。幹ちゃんは綺麗な色味のシャツに黒いエプロン姿。  ソムリエエプロンではなく、胸当てのある普通のエプロン。でも素敵。もっか僕の密かな思い人だ。  カランカランと鳴るドアベルに迎えられ一足踏み入れると、コーヒーの良い香りに包まれる。  最初はただ変な名前の喫茶店だと思って入ってみたにすぎなかった。急な転勤で会社以外で知り合いもいない、何にもない田舎町にやってきて暇だったのだ。  ぶらぶらと歩いてみた商店街のシャッター率の高さと、歩く人の少なさに愕然とし、ここで果たして業績が上げられるのかと今後に不安を覚えてどっと疲れを感じたその時に件の「喫茶店」が目についた。 コーヒーでも飲んで帰るかと入ってすぐに虜になった。そう虜だ。  優しいコーヒーの香り、そして、マスターのお帰りなさいと言わんばかりの(実際にはただのいらっしゃいませだったのだが)優しい微笑みと、マスターの隣で僕に笑いかける背の高い黒髪のステキなイケメン。  三点セットで虜だ。それからは行けるときにはほぼ顔を出した。(かん)ちゃんはどうやら恋人がいるらしくそれが分かった日はひどく落ち込んだ。  次の日会社に行くと 「佐伯さん、ちょっと暗すぎ!!何かあったんですか?」 部下に心配されたほどだった。  基本的に微笑んでいるような顔のつくりと、口下手であまり口数が多くない為、温和で物静かで落ち着いた人という印象を持たれることが多い。  世の中でそんなに腹の立つこともないので温和だと言われればそうなのかもしれない。  ただ、頭の中は常に下らない事で目一杯だ。ダジャレも連発するし、エロい事も普通に考える。 「お前、実はくだらない事ばっか考えてるな!」と見破ったのは今までに1人だけ。    それにしてもショックだ。幹ちゃん恋人いるんだな。  
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