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馬鹿は俺のほうだった。
脅迫状に意識を集中し過ぎた俺は見事に遅刻。遅れて参加した朝のホームルームの最中、俺は憲兵の鉄拳制裁を食らった。
休み時間。一時限目の授業が始まるまでにはまだ少し間がある。俺は脅迫状を手に、二年四組の教室を訪ねてみた。
トイレに行こうとしていたのだろうか。名も知らぬ四組の生徒が教室から出てきたから、そいつを呼び止めて明堂アキラを呼び出して貰った。
「やあ、山崎くん。どうしたんだい」
ほとんど待たせもせずに、明堂アキラが颯爽と現れた。金色のメタルフレームの眼鏡が光っている。明堂アキラはいつものように自信ありげだ。俺のような庶民派には有無を言わせぬような威厳を持ち合わせた校内貴族。その名も明堂アキラ。
「明堂くん。これを見て欲しい」
俺は、脅迫状を明堂アキラに差し出した。
「失敬」そう言いながら、明堂アキラは便箋を手に取り「ふむふむ」と頷いている。
明堂が読み終えた便箋を俺は受け取った。
明堂は眼鏡のレンズをキラリと光らせた。
「つまり、山崎くん。君は悪の秘密結社大幹部地獄元帥の正体は僕だと言いたいわけなんだね」
「決めつけたくはないが、文面から判断すると、明堂くんが地獄元帥の正体ということになる」
明堂アキラは愉快そうに笑った。
「結論から言おう。その脅迫状を書いたのは僕ではない。もちろん、僕は悪の秘密結社とも無関係だし、地獄元帥でもない」
「その言葉、信じたいね」
「ところで、山崎くん。脅迫状には脅迫状に関することは誰にも話すなとある。僕に話して平気なのかい」
どうってことはない。俺は脅迫状なんかに屈するつもりはない。俺は、明堂アキラの目の奥を覗き込んだ。
「地獄元帥は明堂くんじゃないんだね」
「もちろんさ。僕の名誉にかけて」
明堂アキラが嘘をついているとも思えない。それに、校内一の秀才にしてモテ男である明堂アキラともあろう男が、美少女三人の検尿を欲しがるとも思えない。
「わかった。ありがとう。時間取らせて申し訳ない」
俺は、明堂に別れを告げて二年四組の教室を後にした。
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