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霧深い朝だった。
夏だというのに、長袖が恋しくなるような曇り空。どんよりとした一日の始まり。
俺――すっきりしない重苦しい気配の朝に相応しく、見事に寝坊。しかも、いつだって俺は往生際悪すぎ。一本遅れたバスを飛び降りてから走り通し。無駄な抵抗。遅刻寸前。俺は息も絶え絶えだった。
俺は死にかけた犬のように走りながら、校門を抜けた。髪を振り乱し、制服のネクタイで顔の汗を拭いた。そして辺りを見渡した。俺の他に生徒の姿はない。
危険な兆候だった。他のクラスならともかく、俺が在籍する二年五組に遅刻は有り得ない。なにしろ、担任は学年主任と生活指導を兼任している安賀多だ。安賀多の通称は憲兵。安賀多はニックネームに恥じぬ鬼キャラだ。遅刻などしようものなら、俺達無力な生徒は憲兵から何をされるかわからない。
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