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探索
私は館を見下ろす小高い丘の上に立ち、生い茂る木々に身を隠して様子を窺った。広大な森林を背景とする館はジョージアン様式の三階建ての建物で、綺麗に手入れされた庭園により前面を走る主要道路から隔てられていた。
かつてウースター公爵家の地方屋敷であった館は売却され、現在は内装のほとんどをそのままに歴史博物館となっている。敷地の正面に設けられた入口を通り、多くの観光客が館に出入りしていた。入口の左右、そして館の周りには多くの守衛が配備されている。
私はコートのポケットから小型双眼鏡を取り出し、館を眺めた。左右対称に作られた館は正面に破風屋根の玄関の間があり、左右の煉瓦造りの壁に等間隔で窓が並んでいた。向かって左側、西南の隅にあるのが書斎の間で、目指す女王の書簡はそこに隠されているはずだ。二つある窓には鎧戸が付けられ、中の様子を窺うことはできなかった。
ウースター侯爵家の令嬢、ヴィクトリアから女王の密書の捜索を依頼されたのは一か月ほど前のことだった。今、探索は最終段階に差し掛かっている。
ヴィクトリア嬢によると、密書はかのヴィクトリア女王の治世に当時のウースター侯爵が東洋の某国皇帝に届けるよう女王から託されたが、突然の戦争勃発により使送は中止、そのまま侯爵の手元にとどまったものだと言う。情勢が変化し、公開されれば新たな紛争の元となりかねないその書簡を一族は隠し続けた。長い年月の間に隠し場所がわからなくなった書簡を見つけ出してほしいと言うのが、ヴィクトリア嬢の依頼だ。
私は侯爵家に残されていた暗号を基に探索を行った。途中から、同じく密書を狙うドレイク一味との競争も加わったものの、密書がこの館の書斎の間に隠されていること、具体的な隠し場所は侯爵家に伝わる銀のペンダントに書かれていることを突き止めた。ドレイク一味はこの二つにはたどり着いていないはずだ。
ヴィクトリア嬢には銀のペンダントをここまで届けてもらうよう依頼済みだ。彼女のお付き女性従者のメアリが届けてくれるとのことなので、到着次第、回収に取り掛かる。機密が絡むため、博物館に事情を話すことはできない。密かに持ち出すしかないが、そのための準備も整えていた。
「カーティス様」
背後からの心細げな女性の声に、私は振り向いた。
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