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五メートルほど先の開けた場所にメアリが立っていた。その青ざめた顔と、ロンドンの屋敷でのヴィクトリア嬢との面談の間、ずっとそばに控えていた時の彼女との明らかな体形の違いは、まずい事態が起きていることを示していた。
「ごめんなさい。こんな姿をお見せしたくはなかったのですけど……」
メアリはそう言って、両手をフリルいっぱいブラウスの合わせ目にかけた。一気に大きく広げる。シュミゼットの中から零れ落ちるように、二つの西瓜大の銀色の球体が姿を現した。彼女の首に巻かれたベルトと鎖でつながれた球体には時計と南京錠が付けられている。表面全てに鋭角の図形に区切る刻み目が彫り込まれた球体は爆弾に他ならなかった。
「おかしなことをすると、お嬢さんのかわいい胸部が破裂することになるぞ」
メアリの後ろから、ドレイクが数人の手下を従えて姿を現した。相変わらずのひげ面に下卑た笑いを浮かべている。
「時限装置は既に起動している。あと三十分で爆発だ」
ドレイクの言葉で、メアリの大きな目に涙がたまる。
「無理に外そうとしても爆発する。無事に外すには俺の持つ鍵を使うしかない」
奴は自慢げに胸を張った。
「そこで本題だ。銀のペンダントは既に私の手の中にあるのだが、それが示すと言う密書の隠し場所がいまいち分からないんだ」
ドレイクはポケットから小さな銀色のものを取り出した。
「お前は謎を解くのが得意だそうだからな。俺たちのために謎を解いてもらう。お代はそこのお嬢さんの命だ」
私に考慮の余地はなかった。
「わかった。解いてやるからそれをよこせ」
「物分かりがよくて助かるよ」
ドレイクは銀色のものを私に放った。右手で受け止め、手に取って眺める。それは銀製のペンダントヘッドだった。長さ五センチほどでなめくじの形をしている。
「銀のなめくじ……」
「三分やる。その間に解け」
ドレイクの言葉は聞き流し、ルーペでペンダントを観察した。二対の触角に頭瘤、腹足と、ペンダントは写実的に作られていた。なぜ、なめくじなのだろう? 何か意味があるはずだ。ひっくり返して裏面を眺める。裏面も写実的だが、よく見ると疵のようなものがあった。
向かい合わせの三角形、そして斜めの線がいくつか並んでいる。
ː/ ː /
この間隔にも意味があるのだろう。
そうか、銀のなめくじ、silver slugにこれを合わせるのだ。そうすれば……。だが、二つの解釈が可能だ。どちらが……。
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