ベナンダンティの片想い

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魔女によって、人類が制空権を失ったのはわずか3年前のことだ。 始まりはアメリカ合衆国における航空機の消失だった。 晴天下で突如として、機影がレーダーから消えた。 ロサンゼルス午前5時45分発サンフランシスコ行き、サウスウエスト航空WN4658便が突如消息を絶ったのだ。 ロサンゼルス国際空港とサンフランシスコ国際空港双方の、空港管制官との通信も途絶し、当初は最悪の墜落事故を懸念された。 だが、大規模な捜索にもかかわらず、空路に当たる西海岸全域はもとより、サンフランシスコ側の太平洋海上、ロサンゼルス側のデス・バレー国立公園を含む広大な山岳地帯のどこにも、機体の残骸は発見されなかった。 所要時間わずか1時間半のフライ中に一体何が起こったのか? WN4658便が消息を絶ってから約1ヶ月後、NTSB(米国・国家運輸安全委員会)は調査結果を発表した。 要約すると以下の通りだ。 『出発地点であるロサンゼルス国際空港がある陸地側、つまり山岳地帯とロサンゼルスに隣接するネバダ州の砂漠地帯には航空機の残骸は発見されなかった。恐らく機体は到着地点であるサンフランシスコ国際空港を中心とした太平洋側海上に墜落したと推定される。なお、フライレコーダー並びにボイスレコーダー等が未回収のため、事故原因は不明』 しかし、それなら海上で機体の残骸が見つかりそうなものだが、重量のある機体本体は海底に沈む。 加えて、比較的軽量で海面に浮かびやすい破片も数時間で海流に乗り、数㎞から数10㎞漂流する。 従って海上に航空機が墜落した場合、残骸の発見が事故から数年後というのも珍しいことではなかった。 だがそれでも、残された乗員乗客の家族は機体が発見されるまでは望みを捨ててはいなかった。 どこか安全な無人島にでも着陸して、無事でいて欲しい。 俺だって、そうだ。 あの飛行機には大好きな従姉妹のゆきな姉ちゃんが乗っていたんだから。
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