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「さて、そろそろ出てきてもらおうか。ベンツに籠る“カメレオン”さんよ」
刀を振って汚れを落としながら、芳賀は戦闘を端から眺めていた一台のベンツに声を掛ける。すると、それに答えるように黒塗りのドアが開き、中からゆっくりと人が出てきた。
「始めまして“解体屋”のみなさん。私は運び屋を生業としている者です。名乗る名は持ち合わせておりませんが、業界の方々からは“カメレオン”と呼ばれています」
まるで客を出迎えるホテルボーイのように丁寧な敬語で自己紹介をし、笑みを浮かべてうやうやしく礼をする男。見た目は二十代前後。パーマのかかった茶髪にスーツを着たその姿は、就職活動中の学生のようにも見える。だが、全身から漂わせる底知れない雰囲気が、男の確かな実力を感じさせた。
「さて、出会ったばかりで申し訳ないんですが。私にも仕事の流儀というものがありまして」
カメレオンは柔和な笑顔を崩さず、いつの間にか手にした二丁拳銃をこちらに向ける。車から降りた直後から注視していたにも関わらず気づけなかった早業に、芳賀は目を見張った。
(なっ……!)
「仕事の邪魔をした人には死んでもらうんです。必ず」
丁寧な口調とは裏腹に、容赦なく引き金が引かれる。銃声。初動が遅れた芳賀の頬を弾が掠め、僅かに血が飛び散る。芳賀はそれを拭おうとするが、息つく暇もなく今度は顔面に蹴りが跳んでくる。
「チッ!」
咄嗟に芳賀も足を蹴り上げそれを防御。隙を与えず、刀の柄頭で敵の顔面を殴打。相手がよろめいた瞬間後方に跳び、体勢を整えようとする。
「させませんよ」
地面に着地した瞬間に、またもや弾丸が放たれる。芳賀は鋭いステップで弾丸を避けながら、反撃の機械を伺う。狙撃による妨害があればよりチャンスは広がるが、カメレオンは片方の拳銃を信条に向けて発砲。銃撃で信条を牽制し狙撃を封じている。このままではジリ貧だ。芳賀は瞬時に思考を終え、一か八かの賭けに出る。
「こうなりゃこっちから行くぜ!」
敵の射線上に入らぬよう縦横無尽に動き回っていた芳賀は、突如体を九十度転進。真っ直ぐ最短距離で接近を試みる。カメレオンはそれを阻もうと銃撃し続けるが、芳賀は急所に迫る弾のみを刀で防ぎながら、捨て身の特攻であっという間に距離を縮めていく。
(チェックメイトだ)
自らの間合いに入った芳賀は勝利を確信し、渾身の袈裟切りを振るった。
「と、思うでしょう?」
刃がカメレオンの肩に触れた瞬間、激しく鳴り響く金属音。それで全てを察した芳賀は、己のミスを悔いるように苦笑した。
「やっぱりテメェも、改造していやがったか」
直後、下腹部に伝わる衝撃。拳大の血反吐を吐きながらズキズキと痛む部分を見ると、自分の胴体を鋼鉄の手刀が貫いていた。
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