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「翡翠商会に大きな金の流れ?」
天木の言葉に、鳴瀬は頷いた。
「うん。正確に言うと、巨額の金を費やして、何かを買ったたみたい。アイツらが使ってる銀行から、少なくとも数億は借りてる。でも、何のために……?」
画面とにらめっこをしながら、キーボードを叩く鳴瀬。その様子を横目で見ながら、天木はおもむろに携帯を取り出した。
「じゃ、アタシも翡翠の奴等の事、調べてみるか」
番号を打ち、電話をかける。発信音が鳴り始めると、数回の内にすぐに向こうが出た。
『あー、もしもし。今忙しいんスけど』
「よ、ヤス。アンタ見ない間に随分、偉そうになったじゃないか。元ボスに向かってその口の聞き方とはねぇ」
『え゛。もしかして、総長?!お、お、お久しぶりでぇエエエエエエエすっ!』
始めの不機嫌さが一転。急に電話の向こう声が震え出す。無理もない。天木は昔、旧市街を中心に活動していた暴走族のリーダーをしていたのだから。ヤスと呼ばれた男は彼女の元舎弟で、現在は旧市街に事務所を構える小さなヤクザの若頭だ。天木は彼から、同じヤクザである翡翠商会の動きを聞き出そうと考えたのだ。
「昔話に浸りたいトコだが、今はそんな場合じゃねェ。ヤス。最近の“翡翠”の動きについて、何か知ってる事ないか」
『翡翠についてっスか……』
ヤスは数秒黙った後、極端に声のボリュームを落として話し始めた。
『これは最近聞いた話なんスけど、翡翠の奴等、どっかと戦争を起こすらしいです』
「何?本当か、その情報」
『いえ、あくまでも噂です。しかし部下の中には、翡翠の奴等がデカイ船を買って、そこに大量のチャカと組員を乗せて、どっかへ襲撃をかけようという話まで聞いたヤツもいましてね。全く、困ったもんです。冗談でも笑えませんよ。本当に翡翠が戦争始めたら、俺たちまで潰されかねんってのに』
「なるほどな……。悪い、助かったわヤス。じゃあな!」
『え、ちょ、総長?!』
向こうが何か言いかけたのを無視し、天木は通話を切る。
「美羽、翡翠の情報を手に入れたよ。そっちはどうだい?」
「こっちも収穫あり。アイツらの会社のサーバーを漁ってたら出てきた。これを見て」
鳴瀬が見せた画面には、社員同士のメールのやり取りらしき記録が映っていた。
「うーんと、『“アシ”は確保しました。三日後には港に届きます』『了解。運び屋に頼んだ“パーツ”も三日後に受けとれるようにしておく。取引場所は港で調整しておけ』だって?」
メールの内容を読み、天木は先ほどヤスから聞いた情報と照らし合わせる。
(“アシ”、港、そして取引……。そうか!)
脳内で点と点が繋がる感覚を覚え、思わず手を叩く天木。その音の大きさに、鳴瀬の肩がビクリと震える。
「ど、どうしたの?天ねぇ。何かわかったことでもあった?」
「あぁ。つってもまだ確証は無いわ。二人が帰って来たら話そう」
「うん、わかった」
その後も芳賀たちが戻るまで、二人は調査を続けた。
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