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5,戦闘開始
三日後。芳賀たちは、ヨコガワ東部にある港に来ていた。首都圏内でも有数の港なだけあって、至るところに大きなコンテナが置いてある。それらの影に車を隠しながら、一行はこの場所で張り込みをしていた。
「まさか、翡翠の奴等が言う“アシ”があんなモノとはなぁ」
リクライニングに背を預けながら、半ば呆れ気味に芳賀が呟く。その視線の先にあるのは、夜の闇にそびえるように停泊する、巨大な貨物船であった。遠目から見ても車が何千台と積めそうなほどの大きさに、さすがの芳賀も少し圧倒されていた。
「翡翠の奴等はここで“カメレオン”からブツを受け取った後、武器満載のあの貨物船で移動するんだろ?どんだけ金持ってんだよ」
後部座席に座る信条も、銃の手入れをしながらぼやく。
「でも、カメレオンを捕らえるには直接相手と取引するこのタイミングしかない。気張れよ、二人とも」
天木に言われ、二人は諦めたように溜め息をついた。すると、ドローンを飛ばして周辺や船の前にいる翡翠の組員の監視していた鳴瀬のキーボードを叩く手が止まった。
「港の中に、怪しい車が入って来てる」
「車種は?」
「高そうな見た目してるから、ベンツかな?まぁたぶん、これがカメレオンの車だよ」
「よっしゃ。みんな、これから奇襲を仕掛ける。なるっちゃん、車が翡翠の奴等の所に来たら合図してくれ」
芳賀の言葉に、鳴瀬が頷く。他の二人も、それぞれ銃や車の準備を始める。
「接触まで残り五秒。三、二、一……今!」
「行くよっ!」
豪快にエンジンを鳴らしながら、天木が車を急発進させる。偶然近くにいた警備員には目もくれず、タイヤを激しく擦り付けながらアクセル全開で走り抜ける。
「おっ、おい!あれ!」
芳賀らの接近に気づいた翡翠の組員たちが、慌てて銃を構えようとする。
(ここっ!)
敵の銃口が火を吹く直前、車が急旋回。天木はハンドルを切りながらドリフト。強烈なマズルフラッシュとともに放たれる弾丸を、車の側面と防弾ガラスを盾に受け止める。まともに弾丸をくらい、穴だらけになるボディ。それでも車は進むのを止めない。その様子に痺れを切らした組員の一人が、自らの腕に装備されたグレネードを取り出した。
「死ね!」
「させるかよ」
銃撃が止んだ僅かな隙を突き、信条がドアを蹴り開け、すぐさま発砲。彼の愛銃、バレットM82A1から放たれた12.7mm弾は、寸分の狂いなくそのグレネードを撃ち抜く。
「ぐっ……!」
「遅い」
武器を失い狼狽する敵に、芳賀が接近。反撃する暇を与えず、一刀の元に切り伏せる。その間に弾を込め終えた者が芳賀を狙おうとするが、信条の狙撃がそれを許さない。滑らかな動作でボルトハンドルを動かし、排莢。ボルトアクションライフルとは思えぬ連射速度と、常人を越えた精密射撃で次々と敵の頭部を撃ち抜いていく。敵の中には他にも改造者もいたが、装甲車両も貫通するアンチマテリアルライフルの前には紙と同然。為す術もなく鉄屑へと変えられていった。芳賀の剣技と信条の狙撃によって、五分も経たない内に翡翠商会の組員たちは全滅してしまった。
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