2,シティーチェイス

1/2
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ

2,シティーチェイス

 十畳ほどの部屋に響いた発砲音。何が起こったわからず、坂上は呆然としていた。そして数秒遅れて感じた微かな傷みと、部屋に漂う硝煙の匂いで、ようやく我に返った。 「ちょっと、貴方一体どういうつもり!取引相手をいきなり撃つなんて!」 芳賀の撃った弾は坂上の耳を掠めかけ、後ろの玄関のドアに着弾しただけだった。とは言うものの、一歩間違えば死んでいたのだ。当然坂上は猛抗議するものの、本当はどこ吹く風。むしろ呆れた表情でこちらを見ながら、後ろを指差す。坂上はその顔をにらめつけたが、芳賀がしつこく催促してくるので、渋々振り返る。同時に、ギイッという音を立てながらドアが開き、中に人が倒れてきた。年は三十代くらいの男。原因は不明だが、玄関に血溜りができるくらい出血している。救護のため坂上が急いで近づこうとした瞬間、いきなり肩を掴まれた。 「何よ。貴方は人助けの邪魔もするわけ?」 「バカかアンタは。奴をよく見ろ。」 「え?」 芳賀に言われ、もう一度倒れてきた男を見る。目を凝らすと、肩の部分から僅かに配線のようなものが見えた。 「まさか・・・改造者(カスタマー)?」 「ああ。まぁ、心臓に弾撃って死ぬっつうことは、弄ってるのは体の一部みたいだが。」 「じゃあ、さっきいきなり撃ってきたのは・・・・・・」 「コイツを殺るためだ。」  芳賀の言葉を聞き、坂上は己のミスに気づいた。あの男は、自分を尾行していたのだ。目的は恐らく、解体屋の居場所。彼は仕事がら、いつ狙われていても可笑しくはない。そんな事に微塵も気づかず、取引相手の自分がのこのこやってきてここの場所をバラした挙げ句、その始末までやらせてしまった。自分の未熟さに、坂上は思わず舌を噛む。 「すまない。私のせいで・・・・・・」 「気にすんな。んなことよりとっととズラかるぞ、ほれ。」 「え・・・ひゃあ?!」 芳賀はひょいと坂上を抱き抱えると、そのままベランダに出る。柵から顔だけ出して軽く下の様子を確認。車も人もいないとわかると、手すりを蹴ってそこから飛び降りた。 「キャアアアアアアアアアアアッ!!!!」 坂上の悲鳴をよそに、芳賀は地面に両足でしっかり着地。坂上を腕から優しく降ろし。自らも立ち上がる。 「貴方、とんでもないわね。見たところ、どこかケガしてる様子もないし。どうなってるの?貴方の体?」 「そこは企業秘密だな。それより・・・」 ふと芳賀が上を見上る。それに釣られ坂上も上をみた瞬間、先ほどまで居た部屋から銃声が響き、窓から幾つもの火線が見えた。 「嘘でしょ?!」 「お仲間がライフル持っておいでなすったか。それじゃあ、こっちも歓迎の花火を上げようか。」 芳賀はズボンのポケットからスマホを出すと、軽く画面を操作して、何かをポチッと押した。刹那、マンションの五階が爆発。フロアが一瞬で黒煙に包まれた。 「嘘でしょオオオ?!」 「おい、今の内に逃げるぞ!しっかり付いてこい!」 芳賀はこちらを一瞥した後、全力で走り出した。坂上も慌ててその背中についていく。寂れた街を舞台に、命を賭けた鬼ごっこが始まった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!