4,蠢く闇

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4,蠢く闇

 街中を歩いていると、思いも寄らない場所で店を発見した経験はないだろうか。芳賀と信条が向かったのも、そんな隠れた店の一つである。裏通りの雑居ビルの地下でひっそりと営業している店の名は、“ロベリア”。老年のマスターが営む、小さなバーである。少し錆び付いたドアノブをひねり中に入ると、薄暗いカウンターで一人、マスターがグラスを磨いていた。 「よぉジジイ、調子はどうだい?」 「良いも悪いもねぇよ。それより、今日は何飲みに来たんだ」 「いつもと一緒。ボトルウイスキー、一本くれよ」 芳賀そう言うと、マスターの手が止まった。そして僅かに溜め息をつき、グラスを置く。 「どうせそんなことだろうとは思っていたけどよ。で、が欲しいんだ?」 「流石マスター。話が早い」  ずれた中折れ帽を直しながら、ニヤリと笑う信条。そう、この店のマスターこそ、裏の世界の情報屋その人である。普段はアルコールしか売っていないが、先ほどの合言葉を口にした者だけ、情報を売ってくれる。ただし、値段はバカにならないが。 「ジジイ、ここ最近の“カメレオン”の動きについて、何か情報無いか?」 「カメレオン、か。お前さんも分かっているだろうが、ヤツについては殆ど情報が入ってこない。ただ……」 「ただ?」 「おい、何かあんのかよ」 気になるあまり顔を近づけてきた二人にゲンコツを入れながら、マスターは低い声のトーンで言った。 「“翡翠商会”。アイツらがヤツに仕事を依頼したらしい」 翡翠商会。ヨコガワを拠点とする、企業を装った巨大なヤクザの組織である。突然出てきたビックネームに、二人は思わず顔を合わせた。
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