第一章:食事の話

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第一章:食事の話

 俺の自宅近辺には、夜遅くに食事をとれるような店がほとんど無い。唯一深夜まで開いているのは、全国チェーンのファーストフード店、マクロナルド――通称、マック――くらいのものだ。だから帰宅の遅い俺は、よくこの店の世話になっている。  食事を頻繁にファーストフードで済ませるのは健康に良くないと分かってはいるのだが、夜遅くに疲れて帰ってくると、自炊する気も起きないし、手軽に済ませたくなるものなのだ。  今日も、そんないつもと同じ理由で、俺はその店に入った。  時間が遅いこともあって、店内の客はまばらだ。前に一度日曜の昼時に来たことがあるが、その時は、これが同じ店かと思うほどに混雑していた。  まあ俺としては、自分がよく利用する時間帯に空いているのは喜ばしいことではある。  レジの上方に貼られたメニュー表を見ると、期間限定で小魚のかき揚げバーガーというのが発売されているようだったので、それを注文することにした。  単純に期間限定商品に弱いというのもあるが、ファーストフードで食事を済ませるという罪悪感を、肉ではなく魚を食べることで緩和するためというのが一番の理由だ。同じファーストフードでも、魚の方がなんとなく健康に良いような気がするのである。  そんなのは気休めに過ぎないと、自分でも分かってはいるのだが。  先月までは、もう少し健康的な食生活を送っていた。それが今のようなファーストフード三昧になってしまったのは、認めたくはないが、離婚が原因だろう。    しかしそれでも、離婚したこと自体に後悔は無い。たとえ食生活は不健康でも、精神的にはよほど健康になっている。俺のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)においては、そちらの方がよほど重要だ。
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