植物図鑑

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約1ヶ月ぶりに降りる実家の最寄り駅は、数年前の改装工事ですっかり様変わりして、懐かしさは、水で薄められたように淡い。 故郷というには都会で。 実家までの道のりは 緩やかな上り坂で、一泊といっても 法事の為の喪服や着替えなど 荷物を持って えっちらおっちらと登るのも 若い頃より若干しんどい。 私が一人暮らしをするまでは、祖母と母と女三人で住み、今では母が一人で暮らす家のインターホンを押して 玄関のドアを開けると声をかけた。 「こんにちは〜」 大して親戚も多くないウチの四十九日法要は 納骨を含めても 午後には終わり 、夕方には 母と2人 で 何事も無かったかのような 日常に戻った。 おばあちゃんがいないけど。 「なんだか…アッと言う間だったね」 「そうね〜。あ、あなたも飲む?ワイン。」 「飲む。」 「ツマミはチーズとナッツと…トウガラシ味噌とキュウリ。」 「あ、私 トウガラシ味噌には、ちくわがいい。」 「自分で持ってきて。ちくわ。」 もっとも気心の知れた女2人の飲み会がひっそりと始まった。 「美波にあげてって言われていた本、これだよ。」 酔っ払わないウチに と言って 母が奥から持ってきたのは、予告どおりの植物図鑑だった。 しかも 物凄く古い。古本屋でもなかなか見ないぐらいの古い本。 「おばあちゃん、なんか言ってた?」 「うーん。特には。」 「そっか…。」 「まあ、もらっときなさいよ! 」 「…うん。」 「そういえば、美波がおばあちゃんから もらうっていうか、受け継ぐの 2つ目だね。」 「ん?」 「その、美波って名前は、おばあちゃんがつけたの」 「そうなんだ。」 「海を見ると、大切な人に会える気がする…って言ってた。名前つけた時。」 「ふーん。」 「もっと感動とかないの?」 「あんまり、感動とかしないタチだから。」 「そういえば、昔からそうだったね」
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