植物図鑑

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母との飲み会は、早々に終了して 部屋に引っ込んだ。 実家の自分の部屋…これほど落ち着く場所がほかにあるだろうか。 ベッドに寝転んで見える天井も 昔と同じ。 植物図鑑を開く。 乱暴に扱うと 壊れそうだ。 発行は…昭和14年?! 戦前!? どおりで古いわけだ。 表紙を開くと少し角張った字で、『有島 清一郎』って書いてある。 有島…清一郎… おじいちゃんの名前は、由次郎…もちろん有島でもない。 誰だろう。有島清一郎。 たぶん、その人の植物図鑑だよね。 なんで それを おばあちゃんが持ってるのか。 恋人? 初恋の人とか? パラパラとページをめくる。 今時の植物図鑑と違って 写真じゃなくて、精密な絵が書いてある。 そして 真ん中より 少し後ろのページに、栞が挟んである。 かきつばたの花の栞には これまた しっかりとした筆跡で 『佐保さんへ』と書かれている。 佐保は、おばあちゃんの名前だ。 …ということは、有島清一郎さんが おばあちゃんに この植物図鑑を贈ったっていうことかな。
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