植物図鑑

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さっぱり分からない。 パタリと図鑑を閉じた。 が、思い返して裏表紙を開くと そこには見慣れたおばあちゃんの字があった。 『昭和20年5月27日 南西諸島にて』 意味するところは分からないが、もうこの文字を書く人間は この世にいないのだと思うと、あっさりとした寂しさが、波のように サーっと私の心をさらった。 何となく1人でいるのが、居心地悪くなり 今に降りると パンの焼ける匂いがする。 お母さん、起きたんだ。 「早かったね。もっと寝てれば良かったのに。」 「…うん。 …ううん。いいの。」 「朝ごはん食べる?ホットサンド。」 「食べる。自分でやるから大丈夫。」 「そう?」 そういうと、母は自分の朝食を食べ始める。 母は、昔からホットサンドが好きだ。 ハムとチーズが入ったやつ。 ホットサンドが焼ける間、ミルクティーの入ったマグを持って席に座ると あの人物について尋ねた。 有島清一郎。 「お母さん、知ってる?」 「知らない。…初めて聞く名前。」 「そっか…。」 ダメか…。 「植物図鑑を持ってるなんて、先生とか学生さんとかかね〜?」 「うーん。」 「おばあちゃんの実家、下宿をやってたって。その学生さんとか?」
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