僕と私の文通相手

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最初はただただ立ち尽くして聞き取れない言葉をつらつらと発しているだけの長い髪で顔を隠していた青白い女だった。 だが、いつの頃だったか?智也がどんなに疲れていても家に帰れば見計らったかのように出来立ての食事や風呂が用意されるようになった。 忙しさのあまり、掃除まで気の回らない智也のかわりに部屋を掃除し、干すのは智也自身だが、智也の脱ぎ散らかした衣服を洗濯してくれるようになった。 いつもあり得ない同居人に感謝の言葉を口に出すが、ふと智也は自分が彼女の名前すらも知らないことが気掛かりになった。 どうして彼女が自分の世話をしてくれるのか気になった。気になった故に手紙を書こうと……。 *** 初めて入った文具店は小さいながらも品揃えがよく綺麗に陳列されていた。 何かめぼしいものがあれば、と智也が視線を滑らせていると薄紅色のシンプルな便箋が目に入り、智也は気づけばそれを購入した。 帰宅し、食事を済ませた後にすぐに筆を取った。 "いつもありがとうございます。" "僕は貴女のことを何も知りません。もしよかったらまずは貴女の名前を教えて下さい" 便箋に数行だけ。初めての手紙にしては簡素すぎたか?と感じたがまあいいか。 渡し方に暫く悩んだが、見易いよう広げたままにして、まっさらの便箋とボールペンを添えて智也は胸をドキマギさせながら浴室に向かった。 智也が風呂を済ませてタオルでガシガシと頭を拭きながら自分が書いた手紙ともう一枚の便箋を見るが変化はなく、ほんの少し肩を落としてベッドに沈むと智也や泥のように眠りについた。 風でカーテンが揺れ、チカチカと眩しい朝日に智也が目を覚ます。 歯を磨きながら目に入った朝食は白米に卵焼きと味噌汁にほうれん草のお浸し。 そして広げたままの智也の手紙と半分に折られた便箋。 「返事くれた!?」 智也は思わず声に出して歯ブラシを片手にテーブルの上の半分に折られた便箋を手に取るが、中は薄紅色だけで何も書かれておらず落胆させたが、共に置かれた広げたままの手紙の隅っこには何故か若干の禍々しさがあるがまるっこい字でしっかりと『加奈子』と書いてあった。 「加奈子……さん。……母さんと同じ名前」 智也は返事が書かれた手紙を握りしめ小さく呟いた。 ***
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