僕と私の文通相手

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"いつもありがとうございます。 僕は貴女のことを何も知りません。もしよかったら貴女の名前を教えて下さい 藤野 智也" *** いつものように食事や風呂を用意して満足し、姿を消していた加奈子は風呂へと向かった智也からの手紙にとても驚いた。 彼が何かを書いているのには気付いていたが、まさかそれが自分にあてた手紙だとは思いもしなかった加奈子は手紙を見つめて呆然と立ち尽くす。 加奈子は動いていない心臓がドキドキと煩く久しぶりに激しく動いているような気すらした。あまりの衝撃にどうすればよいのかと、あたふたと 困惑し、悩んでいる間に智也が風呂からあがってきてしまい、つい返事をせずに姿を消した。 加奈子はとても嬉しかったのだ。自分の存在に気付き、怯えているのは解っていたがそれでも部屋から出て行かなかった智也。 いつも遅くまで仕事に勤しみ食事もせずに眠ってしまい窶れてゆく智也に何かしてあげたいと思うも、何も出来ずにいた。 何度も何度も練習し、物に触れ、ポルターガイストに見えてしまうのを承知の上で使えるようにまでなった。 だが、いつも「ありがとう」と告げる智也に「私の方こそありがとう」と伝えたくても自分の声は、言葉が通じずモヤモヤしていた。 悩みに悩んで智也からの手紙の隅っこに自分の名前を書こうしたら緊張して震えながらではあるが、普通に書いたはずが"加"の文字が何処と無く禍々しく見え、名前だけを書いた。 それが二人の文通の開始だった。
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