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昔々、ある国に、一人のお姫様がいました。
お姫様は、それはそれは美しかったので、百人の男から求婚されていました。
彼等はとてもとてもしつこかったので、ある日、我慢できなくなったお姫様は言いました。
『この国の北にある嵐の海に船を出し、一ヶ月後、最も大きな魚を釣ってきた方と結婚しましょう』
嵐の海は常に荒れていて、どんな腕の良い漁師でも、怖いもの知らずの船乗りでも、船を出さない事で有名でした。
百人の求婚者のうち、二十五人はあきらめました。
期限の一ヶ月後、六十九人は帰ってきませんでした。
帰って来たのは…
『姫!見てください私の魚!』
若い、顔だけが取り柄の貴族が、彼の腕ほどの魚を掲げました。
『はっ!その程度か』
ある国の大臣が差し出したのは、その一.五倍ほどの魚でした。
『ぬるいですね、私の魚の方が大きい!』
『いいや、私の方が‼︎』
『なんの!私のを見ろ!』
三つ子の王子の差し出したのは、彼等の身長程の魚でした。
桟橋に並べられた三尾の魚を見て、王様が言います。
『三匹とも同じ大きさだな、これでは勝負はつかんわい』
そろそろ約束の一ヶ月の日が沈みます
三人の王子は自分たちが勝ったと、三人の中で掴み合いの喧嘩を始めそうでした。
ところが。
『ただいま戻りました!』
王様の一番のお気に入りの騎士が帰って来ます。
『随分戻ってくるものね。皆沈んでしまえばよかったのに』
お姫様がボソリと、その赤いバラの花びらのような唇からは、信じられないほど冷たい言葉を、そっと出されました。
が、その言葉はとても小さく、そしてお姫様には、全く相応しくなかったので、誰の耳にも届かなかったのです。
『ご覧ください姫、この魚の大きさ』
騎士が釣って帰ったのは、四人乗りの小舟ほどもある鮫でした。
『でかした、親衛団長! これで勝負は…』
王様は、太陽が最後の光線で水平線を切り取る海を見て言いかけ…。
ですがその時
『姫ー‼︎』
もう針の先ほどの太陽の光を遮って、ボロボロになった帆船が港に戻って来ました。
びっくりした皆の前で、とても年寄りの男が船から降ります。
船の向こうに船より大きな影が見えていました。
『お望みの魚を釣ってきましたぞ』
男がそう合図すると、船の向こうから、大きな魚が引き出されます。
そう、それは帆船より大きな鯨でした。
『私の魚が一番大きいでしょう?』
と言った年寄りの男は、魔法使いとも噂のある、鍛冶屋でした。
『姫、お約束通り、私と結婚していただけますな?』
お姫様はもちろんのこと、王様も他の求婚者たちも受け入れ難いと言う表情をしています。
魔法使いとは、悪い噂でしたし、そうでなくとも、鍛冶屋は誰も本当の年齢を知らないくらいの、年寄りでしたから。
しかし、約束は約束です。
お姫様は、鍛冶屋に近づきます。
一歩、二歩、…あと一歩で鍛冶屋の手を取る。その時でした!
《ハックション‼︎》
鯨が大きなくしゃみをしました。
キラリン⭐️
鯨の口から何かが飛び出します!
『しまった!魔法の釣り針が⁈』
《怒💢》
自由になった鯨は、胸ビレを高々と差し上げて。
ドッシャーン‼︎
桟橋を粉々に打ち砕きました。
お姫様も王様も求婚者達もみんな海に投げ出されて…。
あっ、お姫様は鯨のヒレに引っかかりました。
そうして、お姫様を連れた鯨は、悠々と海に帰って行き、お姫様は嵐の海の主である鯨と結婚して、二人は末長く幸せに暮らしましたとさ。
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