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「今回は私も山崎先生も、彼女に助けられたようなものです」
西成は丁寧に手紙をたたみながら小さくこぼす。
「でもこの手紙、ご両親に見せても支障ない内容だと思うんですが、どうして西成さんは頑なに断ったんですか?」
そういう山崎は腑に落ちないような表情を浮かべている。けれども西成は妙な湿り気を帯びていて、さらに意外な一言をこぼす。
「だって、この手紙にはもっと深い意味がありますからね」
「え、どういうことですか?」
そして少々、間があった。
「彼女は自分が亡くなると悟っていたのでしょう。『一生じゃなくて永遠の思い出』とはそういう意味です。そう考えるとこの文面、間違いなく『好きといえないラブレター』です。
山崎先生が華さんとの別れを引きずらないよう、彼女なりに精一杯の気持ちを込めています。
……私は多くの人間を見てきたから、そういうことがわかるんです」
すると山崎の目が見開かれ、微かに声が震える。
「でも……そんなの……邪推ですよ……」
「……いや、実は証拠があるんです。この手紙、稚い文章ですがどうも文末がわざとらしいんです。
今気づいたのですが、これは『最後の手紙』ですから、すべての段落の文末の一文字だけ繋げて読んでもらえますか?
どうやら最後の挑戦は彼女の勝ちのようですね」
西成はそういって手紙を返し、眩い地平線に目を向けた。その横顔は愁いを湛えていた。
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