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山崎は受け取った手紙を慌てて読み返す。すると指先が震えだし、みるみるうちに表情が崩れていった。心の底から打ち震えているようだった。
「……僕は駄目な医者ですね」
その一言に西成は尋ね返す。
「あなたがいうところの駄目な医者というのは、患者さんの死に涙する医者のことでしょうか。それとも患者さんに情愛を抱いた医者のことでしょうか」
「……すいません、どっちもです……ッ!」
その返事は、もはや声にならないほど震えていた。西成はさらりと言い残す。
「駄目じゃないですよ、むしろ人間らしくてよいと思います。華さんが好きだったのは、山崎先生のそんなところだったんでしょうね。
では、私はおいとまします」
その言葉が嗚咽をあげる山崎の耳に届いたかどうかはわからない。
けれどもいまさら西成がそれをいう必要はなかったのだろう。
なぜならこの手紙に込められているのは、医者として成長しても、いつまでも人間らしい彼のままでいて欲しいという、彼女の切な願いなのだから。
【了】
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