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そんな時間がしばらく続いたが、突然、山崎があっと声を上げた。
「これ、華さんの好きなクイズ番組で出てきた問題に似ています!」
その一言に、皆の視線が集められる。
「並び替えだけでは解けない問題で、ふたつの字を組み合わせてひとつにするはずです。
例えばこの細い『ー』の字のメモ紙は、いかにも組み合わせろといわんばかりです。ですから、この中で組み合わさるのは、ええと……『人』+『ー』=『大』でしょうか」
すぐさま母の瞳が大きく見開かれた。
「あっ、じゃあ、ひょっとすると他の漢字もそうなのかしら? 例えば『女』+『子』=『好』になりますね」
そして最後に声をあげたのが父であった。その声は驚きに満ちていた。
「ああっ……、わかりましたっ!」
父が震える手でメモ紙を並び替えると、彼女の伝えたかった一言が浮かび上がる。そして誰もが息を呑んだ。
『み ん な 大 好 き よ』
百戦錬磨の西成でさえ驚きを隠すことができない。しかし自身の役目を思いだし、意図をこう解釈してみせた。
「もしかすると彼女は、大切な人達が自分の考えたクイズを囲んで頭を悩まし、自分のことを思い出してくれる、そんな光景を願っていたのだと思います。
そうだとすれば、この状況はまさに彼女の計画通りだったのでしょう」
その一言に両親は打ち震えていた。娘から貰った手紙を握りしめる二人に向かって西成はそっと諭す。
「山崎先生は華さんにとって、両親同様、大切な人だったに違いありません。だから華さんが先生に恋をしていたとしても、それはそれでよかったじゃないですか。
年頃の女性が、恋の歓びを知らずして人生の幕を閉じるなんて酷ですから。山崎先生の存在が華さんの人生を鮮やかに染めていたのでしたら、単に医者と患者という関係だけで引き裂かなくてもよいのでは、と思います。
だから手紙の内容は、二人だけの秘密にしてやってくださいな」
西成がそういうと、父も母も目を瞑り、黙って何度も首を縦に振った。
「それではしばし、華さんの思い出話に花を咲かせましょうか。お茶をご用意しますね」
西成はそういって立ち上がる。
そんな西成の背中に向かって、石渡は捨て台詞を吐いた。
「どうやら私は最初から必要なかったようですね。ですからこの件は白紙に戻すことにしましょう。
西成先生とはまた別の機会にお会いすることがあるでしょうが、そのときは煙に巻くような真似はできませんよ」
そして踵を返し、診療部門特別相談室を後にしたのだった。
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