最期にこれだけ

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 それでも 「バレなければ大丈夫なんじゃないか」 なんて甘い考えでいたのもつかの間。隠し通せるわけもなく、すぐにバレた。日頃の不満も合わさって喧嘩になり、つい口走った一言で二人の二年間はあっさりと終わりを告げた。 「もう別れよう」  別に亜希への気持ちがなくなっていたわけじゃなかった。部屋で過ごすとき、時折窓の外を眺める亜希の横顔にはよく見惚れたものだ。  でもただちょっとレスで物足りなかったところへ、良いきっかけが向こうから歩いてきた。それでつい、酒の魔力も手伝って手を出してしまったのだ。 「確かに浮気をした俺が悪い。それは認める。 でも少しは亜希にも責任があるんじゃないか。仕事が忙しいってのは聞いていたけど、だからって一緒にいるときも上の空。ほとんど話を聞いてないっていうのもどうなんだって話。せめて夜くらいは起きていてくれたって良かっただろ」  例の夜も愚痴を聞いてくれた友達と飲みに行き、辰巳はそうやってまた愚痴った。土曜日の夜に。いや、そこまでほぼ毎晩、同じ友達に付き合ってもらって飲み続けた。ひたすら毎日亜希とのことを話しては 「俺だけが悪いんじゃない。そういう時期だったんだよ。いずれは別れることになってたんだ」 そう言い続けた。まるで叱られても反省しない子供のように、言い訳じみた酷いものだったに違いない。  とにかく辰巳は浮気を反省していなかった。自分の過ちを認めないようにした、とも言える。 「自分は自由の身なのだ、何をしようと誰からも怒られたりしない」  自慢するように独り身の良さを語った。 「そうだ、またナンパをして誰かと一晩の関係をもってもいい。いっそのことそういう目的の相手を作ろうかな」  やけになってそう言うと、友達はなんとも言えない表情をした。ビールの残りを辰巳から取り上げる。
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