最期にこれだけ

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 冗談とはいえ先週ナンパをしようと言い、別れるきっかけを作ってしまったのだ。多少の罪悪感があったのだろう。飲みすぎるなよと何度も注意を受けた。それでもやけになっていた辰巳は、結局先週より多めのビールを喉に流し込んだ。 「酔っていたから」 というのは言い訳だろう。その帰りに女の子に声をかけられた時、辰巳は易々とついて行った。一週間前の浮気した夜とは別の子たちだ。友達は怒って止めた。 「いい加減にしろよ。そうやって失敗したばっかじゃねえか。大体飲みすぎるなってあれ程言ったのに……」 「うるせえな、もう別れてんだから今度こそどうしようと俺の勝手だろ」  そう言って女の子の腕を引っ張って居酒屋に入った。友達は怒って帰ってしまったが気にしないようにした。  一時間くらい話した頃だろうか。 「私ちょっとトイレ行ってきますねぇ」 「あ、私も私も~」  二人同時に席を立ち、辰巳は一人取り残された。仕方なく残りのビールを飲みほし、スマホで検索をかける。 『ラブホ 近く』  前回と同じとこに行く気はない。現在地と赤いマークがいくつかついた地図が表示される。店のすぐ裏に一軒あるようだ。値段や設備もちょうど良い。 ここでいいか。 「おまたせしましたぁ」  二人が帰ってきて慌てて電源を切った。さすがに下心丸出しはまずい。  片方が席には座らずそのままバッグを肩にかけた。 「私、なんだか酔っちゃって~気分悪いので先に帰ります~。あとは二人でごゆっくり~」  そう言って残る方の女の子に意味あり気な視線を送って出て行った。そんな訳で 「お願いしますぅ」 なんて言いながら座った方の子とまた二人で小一時間飲む。後はもう簡単だった。帰り際に今度は俺の方から誘う。 「ちょっと休憩していかない?」  こんな典型的なセリフを言ったのいつぶりだろう。  亜希とはラブホに朝までいたことは無かったな。そう思いながら辰巳は夜の街に消えていった。  亜希の訃報が届いたのはその次の日の朝だった。
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